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「無理だ、メノウ」
絞り出すような声でスイが言った。
その壁を作り出したのはあの方だ。あの方の魔力に勝てるはずがない。
駆け寄ってくる複数の足音が止まると、つかつかと余裕のある足音が近づいてくる。嫌な予感しかしなくて顔は上げられなかった。
「メノウを捕らえろ」
させない。低い声に反応して立ち上がろうとしたが、胸の痛みがさらに強くなって身動きすら取ることができない。背後で丸腰のメノウが二人の兵士に取り押さえられる。
次の瞬間、スイの体がふらりと浮き、そのまま凄まじい圧力で透明の壁に突き飛ばされた。胸の痛みがいくらかは和らげられたようだが、もうすでに今の衝撃が駄目押しとなり、体に力が入らない。本来なら壁にもたれかかったまま、くずおれるのだろうが、背中が壁に磁石のように吸い寄せられてそれさえも許されない。壁に貼りついて立った姿勢のまま、スイは顔を横に向け、目を閉じ、苦しそうにあえいでいた。
不意に顔を無理やり正面に向けられ、スイは薄目を開ける。
「やはりお前か」
マーラル王ヌビス。なぜこんなところに現れたのか。
「お前、確か七、八年前にリザレスから交換研修で来ていたな」
「覚えていただいて光栄です」
精一杯の皮肉っぽい笑みを浮かべてスイは答えた。すると、ヌビスも負けない冷酷な笑みで返した。
「覚えているさ。未だにお前以上の研修生は現れていないのだからな」
記憶が蘇ってぞくっと悪寒が走る。
「随分背が伸びたな。私と同じくらいになった。大人になって少し色気も増したかな」
じっくりと顔を観察しているヌビスをスイは直視できなかった。目を合わせるのが怖かった。どんな目をしているのか見たくもなかった。
「知っていたか? その胸に刻まれた呪いは一生解けない。遠くにいるときにはどうにもできないが、このように近くにいれば」
胸の痛みがまた強くなってスイは呻き声を上げる。
「そうだ。その顔だ。何人もの研修生に同じ苦痛を与えたが、その顔以上に私を満足させる顔はまだないのだ」
食い入るようにスイの美しく歪んだ顔をヌビスは見つめていたが、急にその口元に浮かべていた残酷な笑みが怒号に変わった。
「なぜだ! なぜこの城に戻ってきた!」
意識が一瞬なくなるほどの激しい痛みが胸を突き刺し、すぐに退いた。スイは荒い呼吸の合間に何とか言葉を挟み込めそうなタイミングを探して答えた。
「メノウを……たす、ける、ため……」
次回更新予定日:2019/03/09
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絞り出すような声でスイが言った。
その壁を作り出したのはあの方だ。あの方の魔力に勝てるはずがない。
駆け寄ってくる複数の足音が止まると、つかつかと余裕のある足音が近づいてくる。嫌な予感しかしなくて顔は上げられなかった。
「メノウを捕らえろ」
させない。低い声に反応して立ち上がろうとしたが、胸の痛みがさらに強くなって身動きすら取ることができない。背後で丸腰のメノウが二人の兵士に取り押さえられる。
次の瞬間、スイの体がふらりと浮き、そのまま凄まじい圧力で透明の壁に突き飛ばされた。胸の痛みがいくらかは和らげられたようだが、もうすでに今の衝撃が駄目押しとなり、体に力が入らない。本来なら壁にもたれかかったまま、くずおれるのだろうが、背中が壁に磁石のように吸い寄せられてそれさえも許されない。壁に貼りついて立った姿勢のまま、スイは顔を横に向け、目を閉じ、苦しそうにあえいでいた。
不意に顔を無理やり正面に向けられ、スイは薄目を開ける。
「やはりお前か」
マーラル王ヌビス。なぜこんなところに現れたのか。
「お前、確か七、八年前にリザレスから交換研修で来ていたな」
「覚えていただいて光栄です」
精一杯の皮肉っぽい笑みを浮かべてスイは答えた。すると、ヌビスも負けない冷酷な笑みで返した。
「覚えているさ。未だにお前以上の研修生は現れていないのだからな」
記憶が蘇ってぞくっと悪寒が走る。
「随分背が伸びたな。私と同じくらいになった。大人になって少し色気も増したかな」
じっくりと顔を観察しているヌビスをスイは直視できなかった。目を合わせるのが怖かった。どんな目をしているのか見たくもなかった。
「知っていたか? その胸に刻まれた呪いは一生解けない。遠くにいるときにはどうにもできないが、このように近くにいれば」
胸の痛みがまた強くなってスイは呻き声を上げる。
「そうだ。その顔だ。何人もの研修生に同じ苦痛を与えたが、その顔以上に私を満足させる顔はまだないのだ」
食い入るようにスイの美しく歪んだ顔をヌビスは見つめていたが、急にその口元に浮かべていた残酷な笑みが怒号に変わった。
「なぜだ! なぜこの城に戻ってきた!」
意識が一瞬なくなるほどの激しい痛みが胸を突き刺し、すぐに退いた。スイは荒い呼吸の合間に何とか言葉を挟み込めそうなタイミングを探して答えた。
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