魔珠 第4章 マーラル魔術研究所(2) 情報収集2 忍者ブログ
オリジナルファンタジー小説『魔珠』を連載しています。 前作『ヴィリジアン』も公開しています。
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忍びの者は口元を吊り上げた。そこまで気づいていたとは。リザレスの情報力は侮れないと思い苦笑した。
「我々の任務はメノウがどうなるか監視して次の売人を指名するかどうか判断することでしたが」
 忍びの者は意地の悪い笑いを浮かべて続けた。
「何年もかけて育ててきた腕の良い売人を簡単に失うのは、我々にとっても得策ではありません。あなたが助けたいと言うのなら情報くらいは提供しましょう」
「ありがたい」
 忍びの者は売人個人がどうなろうと手出しはしない。里のために動くことはあっても個人のために動くことはない。今回のように売人が任務に失敗して捕らわれても、里としては帰還不能と判断された時点で次の売人を立てるだけである。里はメノウの命を守ってくれない。だからこそスイはここに来た。
 忍びの者は懐から四つ折りになった紙を取り出した。紙を広げると、そこには送られてきたものと同じ見取り図が書かれていた。所々に書き込みが加えてある。
「現在、我々が把握している見取り図です」
 研究所の二階にあるいちばん広い部屋には、「魔珠特殊実験室」の表記があった。忍びの者がその部屋を指差す。
「メノウはこの部屋に閉じ込められました。しばらくすると、衛兵たちが来てメノウを連行しました。今、メノウがいるのはここです」
 研究所と城は地下通路でつながっているらしい。その通路の半ばよりも北側、つまり城に近い場所から東の方向に細い通路が延びている。そこからまた南に通路がつながっているらしい。通路の先には独房がいくつもあり、そのうちの一つにメノウは監禁されているとのことだ。
「よくここまで調べたな」
 スイが感心すると、忍びの者は答えた。
「足音や話し声を頼りに。あと独房の南側、ここですね。ここの天井にあたる部分に換気用の窓があって、鉄格子から少しだけ中の様子がうかがえます」
「この格子は外せないよな」
「よほどの怪力でない限りは」
「では、こちらはどうだ?」
 東の方向に延び/道の先に階段がある。非常用だろうか。
「この階段のある場所にも鉄格子がはめられていて、鍵がかかっています」
「鍵か。面倒だな。城か研究所から侵入したいところだが」
 ため息をつくと、忍びの者にくすっと笑われた。
「でも、帰りのことを考えると、やはり逃走経路は短いに越したことはないですからね」
「仕方ない」
 スイは北の方向に歩き出した。忍びの者もすっと姿を消した。

次回更新予定日:2019/02/23

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