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一度絶叫を発すると、激しい苦痛が少し緩やかになったようで、呻き声が荒い呼吸に変わった。キリトは固唾をのんだ。思わず握った手に力が込められる。
大した時間は経っていないはずだったが、長い時間に感じられた。シェリスが頼まれた材料、薬の調合に必須の魔法水、薬瓶と小さなグラスを持ってきた。キリトは礼を言って受け取ると、すぐに材料と魔法水を薬瓶に入れる。魔力を加えて調合すると、グラスに少量、できた薬を注いだ。
「飲める?」
薄目を開けてうなずくスイの口から薬を流し込む。スイはごくりと音を立てて薬を飲み込んだ。数秒ほどすると、呼吸が少し穏やかになった。
「ありがとう、キリト」
キリトは無言のままうなずいて静かにスイの様子を観察した。二、三分ほどで痛みは治まったようで、疲労は見られたが、いつもどおりの呼吸に戻った。スイが落ち着いたのを確認すると、シェリスは一礼して退室した。
足音が聞こえなくなると、キリトは静かな口調で訊いた。
「どうしたんだ、その傷」
すると、疲れ切った顔をしていたスイが急に毅然として言った。
「この傷のことは誰にも話さないし、この先話すこともない」
「そうか」
何となく分かっていた。
「スイ」
キリトは穏やかに微笑んだ。
「話したくなったら、いつでも話してくれていいからな」
キリトはちゃんと分かってくれている。そう確信したスイは、キリトの優しさに甘えることにした。
「うん。ありがとう」
傷の理由を話してもらえたのは、キリトが外務室に勤めることが決まったときだった。
スイは冷静な目でキリトの反応を観察していた。
「納得してもらえたようだな」
「あ。ああ……」
若干動揺しながらキリトは答えた。スイは構わず続けた。
「マーラル王は猜疑心が強いから、王の寝室は万全の警備になっている。特殊な結界が張られていて、他にも侵入者を捕らえるために様々な仕掛けが施されている。そう簡単に場所を変えるわけにはいかないはずだ。それにこの右側」
スイは見取り図の王の寝室のある二階の右端を指差した。
「つまり東側の階段。これは存在しない」
仮に王の寝室の位置を変えたとしても、わざわざ階段を新たに作ったりするだろうか。階段を増やしても警備の手間が増えるだけでその必然性が感じられない。
「キリト」
スイは真っ直ぐキリトを見つめた。キリトはゆっくりと顔を上げる。
「明日の船でマーラルに行きたい」
罠に飛び込んだメノウを助けに行く。そのために危険を冒す。どんなことをしてでも止めたかったが、スイにとってメノウがどれほど大切な存在かはよく知っている。止めることはできない。交換研修のときの傷を思い出す。マーラルが怖くて仕方がない。スイだって怖いはずだ。それでも凛としたその目をそらさない。
「分かった。気をつけて行ってこいよ」
「ありがとう、キリト」
スイもキリトの気持ちは分かっていた。だから、自分の気持ちを理解してくれたキリトに感謝の言葉を述べる。これで何回目だろう。キリトには借りだらけだ。
次回更新予定日:2019/02/09
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大した時間は経っていないはずだったが、長い時間に感じられた。シェリスが頼まれた材料、薬の調合に必須の魔法水、薬瓶と小さなグラスを持ってきた。キリトは礼を言って受け取ると、すぐに材料と魔法水を薬瓶に入れる。魔力を加えて調合すると、グラスに少量、できた薬を注いだ。
「飲める?」
薄目を開けてうなずくスイの口から薬を流し込む。スイはごくりと音を立てて薬を飲み込んだ。数秒ほどすると、呼吸が少し穏やかになった。
「ありがとう、キリト」
キリトは無言のままうなずいて静かにスイの様子を観察した。二、三分ほどで痛みは治まったようで、疲労は見られたが、いつもどおりの呼吸に戻った。スイが落ち着いたのを確認すると、シェリスは一礼して退室した。
足音が聞こえなくなると、キリトは静かな口調で訊いた。
「どうしたんだ、その傷」
すると、疲れ切った顔をしていたスイが急に毅然として言った。
「この傷のことは誰にも話さないし、この先話すこともない」
「そうか」
何となく分かっていた。
「スイ」
キリトは穏やかに微笑んだ。
「話したくなったら、いつでも話してくれていいからな」
キリトはちゃんと分かってくれている。そう確信したスイは、キリトの優しさに甘えることにした。
「うん。ありがとう」
傷の理由を話してもらえたのは、キリトが外務室に勤めることが決まったときだった。
スイは冷静な目でキリトの反応を観察していた。
「納得してもらえたようだな」
「あ。ああ……」
若干動揺しながらキリトは答えた。スイは構わず続けた。
「マーラル王は猜疑心が強いから、王の寝室は万全の警備になっている。特殊な結界が張られていて、他にも侵入者を捕らえるために様々な仕掛けが施されている。そう簡単に場所を変えるわけにはいかないはずだ。それにこの右側」
スイは見取り図の王の寝室のある二階の右端を指差した。
「つまり東側の階段。これは存在しない」
仮に王の寝室の位置を変えたとしても、わざわざ階段を新たに作ったりするだろうか。階段を増やしても警備の手間が増えるだけでその必然性が感じられない。
「キリト」
スイは真っ直ぐキリトを見つめた。キリトはゆっくりと顔を上げる。
「明日の船でマーラルに行きたい」
罠に飛び込んだメノウを助けに行く。そのために危険を冒す。どんなことをしてでも止めたかったが、スイにとってメノウがどれほど大切な存在かはよく知っている。止めることはできない。交換研修のときの傷を思い出す。マーラルが怖くて仕方がない。スイだって怖いはずだ。それでも凛としたその目をそらさない。
「分かった。気をつけて行ってこいよ」
「ありがとう、キリト」
スイもキリトの気持ちは分かっていた。だから、自分の気持ちを理解してくれたキリトに感謝の言葉を述べる。これで何回目だろう。キリトには借りだらけだ。
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