魔珠 ヴィリジアン 忍者ブログ
オリジナルファンタジー小説『魔珠』を連載しています。 前作『ヴィリジアン』も公開しています。
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「お待たせしてしまって申し訳ございません、グレン将軍」
 ドアを開けると、デュランが息を切らしている。
「クレッチがいないんです」
「え?」
 約束を破るような人ではないのに。
「今日、クレッチは森の昼間のパトロールで、五時には夜間の人と交代するはずなんです」
 城の横には結構な広さの森がある。国王の所有地で、城の庭園とつながっていて、いちおう城の敷地内ということになっている。城で使用する木の実や薬草が収穫されたりもしているが、元々は国王や城の住人が狩りや散策を楽しむためのものである。
「門番に聞いてもまだ戻っていないって言うんです。何かあったんでしょうか?」
 パトロールで何か異変を見つけて対処しているのだろうか。ヴァンパイアが出現してから野生の動物の中にも、おそらくあのカーマナイトという鉱石が影響しているのだろうが、凶暴化し、非常に危険になっているものもいる。厄介な動物に出くわした可能性もある。
「行ってみようよ。何かに手こずっているんだろう。助けになるかもしれない」
「いいんですか?」
「一人で待っているのは退屈だからね」
 グレンは笑って剣を手にした。
「行こう」

 もう辺りはすっかり暗くなっていた。
「私が灯を点します」
 そう言うと、デュランが指先に小さな光の球を作り、宙に浮かべた。
「パトロールはそっち側から行くんだよね。逆から行った方が早く会えるかな」
「そうですね。その方が入れ違いにならなくていいかと」
 二人は左の道を選んだ。
「パトロールか。懐かしいなあ」
 柔らかい草の感触を確かめながらグレンは歩いた。王城の兵士たちは交代で森のパトロールを行う。だが、王騎士は城を空けることが多くなっているため、パトロールのシフトから外されている。だから、王騎士になってからはパトロールをすることがなくなった。
「ちゃんと道覚えているんですね」
 森の奥の方に来ても何の迷いもなく歩いて行くグレンを見て、デュランは言う。
「何回も歩いたからね。忘れられないよ」
 そのとき、何かに気がついてグレンが足を止めた。デュランも一瞬遅れてだが、足を止めた。耳を澄ましたが何も聞こえない。だが、確かに異様な空気が漂っている。
「この感じ」
 グレンの瞳に警戒の色が浮かぶ。

次回更新予定日:2016/05/21

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グレンの言葉には強い意志があった。自身も上級ヴァンパイアと戦ったことがあるソードは感覚的にグレンの言葉を理解した。
「そうだな」
 ぼそっとソードが呟く。
「いい練習になったと思う。まさかあの術が破られるとは思っていなかった」
「全然知らない魔法だったから、どうしようかと思ったよ。研究熱心だね、ソードは」
「興味があるだけだ。一度お前くらい強い相手に試してみたかった」
「ソードは、ソフィアや僕と違って攻撃魔法を使うから、すごく勉強になる。上級ヴァンパイアの攻撃パターンと似てる」
 グレンとソフィアは剣を使った技を主としたバトルスタイルであるのに対し、ソードは得意な攻撃魔法が主軸である。同じ王騎士でも違った戦い方になる。
「それにしても、やっぱりソードは強いなあ。かすり傷しかつけられなかった」
 グレンは溜息をつく。
「そんなことはない。お前は私の術を断ち切った。私の負けだ」
 確かにあの激痛を抑えて集中力を最大限にまで高め、魔法の効力を断ち切る術を体験したことは、それだけで価値があるように思えた。ソードにそれを指摘されると、急に達成感が出てきた。
「優しいんだね、ソードは」
「そんなふうに言うのはお前だけだ」
 グレンはくすっと笑った。それを見て少しだけソードも笑った。

 がばっと起き上がった。
「また、か」
 嫌な汗が滲んでいる。息は切れ切れだ。また絶叫したのだろうか。喉がからからだ。
 またあの夢。エストルに牙を剥く夢。リアリティが回数を重ねるたびに出てくるような気がする。夢の中での感覚がより鮮明に、徐々に研ぎ澄まされていっているような気がする。
 窓の外を見た。もう暗くなっている。かなり眠れたようではある。魔力も順調に回復していたのだろう。今の夢で精神を蝕まれたせいでまた疲れが出て、どの程度回復したのか感覚的にはよく分からなくなっているが。
 もう少ししたら、デュランたちが来るはずだ。こんな疲れ切った顔で二人に会いたくない。二人が来るまでに気持ちを切り替えなくては。
 テーブルの上でカラフェとグラスが置いてあるのが目に留まった。デュランが置いてくれたのだろう。喉がからからだったことを思い出し、ベッドから抜け出すと、カラフェの水をグラスの注ぎ、一気に飲み干した。少し頭が回るようになったような気がした。
 とりあえず出かける支度をしよう。
 身支度が整って、しばらく片づけなどをしていると、ドアの向こうで声がした。

次回更新予定日:2016/05/14

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「何か他にお手伝いできることはありますか?」
「ううん。ありがとう」
 グレンの笑顔を見てデュランもほっとして笑う。グレンの笑顔にはいつも心を癒される。
「では」
 席を立って椅子を元の位置に戻すと、デュランは突然何か思い出したように動きを止めた。
「グレン将軍」
「何?」
「久しぶりですし、もし調子が悪くなかったら、今晩夕食一緒にどうですか? クレッチと約束しているんです」
「うん。行かせてもらうよ」
「六時過ぎにお迎えにあがります」
「分かった。待ってる」
 デュランはドアを開けた。
「また旅の話、聞かせてください」
 一礼してデュランはグレンの部屋を出た。すると、そこにソードが立っていた。
「ソード将軍」
 少し驚いたようにデュランは立ち止まった。もたれかかっていた壁からソードはゆっくりと身を起こした。
「グレンを連れてきてくれたそうだな」
「あ、はい」
「礼を言う」
 いつもどおりの静かな口調でソードは言った。見えない威厳がある。
「いえ、部下ですから、当然です。あ、あの、お待たせしてしまって申し訳ございません」
「いや。私が勝手に来たのだ。構わない。もう帰るのか?」
「はい。どうぞ」
 デュランは道を譲ってそのまま去っていった。
「グレン、私だ。入ってもいいか?」
 どうぞ、と中から声がする。ソードはゆっくりとグレンの部屋に入った。勝手に通り道にあった椅子を取り、グレンの横に座った。ソードの体もまだ重そうだ。
「やり過ぎたか?」
 グレンの有様を見てソードは苦笑する。
「ううん。僕が本気でってお願いしたんだ。これでいい」
 しかし、そこまで言うと、穏やかだったグレンの顔が急に険しくなった。
「これくらいやらないと、意味がない」

次回更新予定日:2016/05/07

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「ソード」
 振り向くと、分厚い本を持ったエストルが柱の向こうに立っていた。
「少し話がしたい」
「今、行きます」
 ソードは立ち上がってエストルの方に向かった。二人はエストルの執務室の方向に去っていった。
「大丈夫ですか、グレン将軍?」
 勝負を見ていたデュランが駆け寄ってくる。
「ああ、デュラン。久しぶりだね」
 立ち上がろうとしたが、よろける。デュランが慌ててグレンの体を支える。
「少し休まれた方がいいのでは?」
「うん。そうする」
 思ったより回復ができていなくてグレンは苦笑する。
「部屋までお連れします」
「ありがとう」
 グレンはデュランの背中にもたれかかった。

 デュランはグレンをベッドに降ろした。
「ごめんね。立ちくらみして」
「あれだけ出血したんですから当然です。椅子お借りしてもいいですか?」
 布団をてきぱきとかけながら、デュランは聞く。
「どうぞ」
 デュランは近くの椅子を取ってきてグレンの横に座った。
「力もあまり入らないんじゃないですか?」
「そうだね。でも、魔力が尽きてしまっただけだから、少し休めば回復するよ」
「そうですね。あ、そうだ。まだ傷完全には癒えていませんよね?」
「うん。だいたい二人で治療したけど、魔力が足りなくてまだちょっと痛む」
「治療させてください」
 そう言ってゆっくりとデュランがグレンの胸に手を当てる。淡い光が全身に広がっていく。
「すごく、優しい光」
 グレンが穏やかな顔になって微笑む。デュランは嬉しそうに言った。
「グレン将軍に教えてもらったことを毎日練習しているんです。少しは上達していますか?」
「うん。前よりもずっと上達している」
 治療が終わると、光がしぼんだ。

次回更新予定日:2016/04/30

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「何、これ?」
 弱々しいかすれ声でグレンが呟く。
「今研究中の古代魔法だ。体の中にもびっしり根が張っていてお前の生気を吸収していく」
 どうすればいいのだろう。
 グレンは漂っていってしまいそうになる意識を必死になって食い止めながら考えた。
「核、みたいなものが、ある?」
 体の中のどこかにある。でも、どこに。
「早く探し出さないと体が粉々になる」
 ソードは冷静な口調で言った。
 グレンは集中しようとした。だが、集中できたと思った瞬間、激痛に襲われ、頭の中が真っ白になる。
「探し、出さないと」
 ありったけの力を振り絞って魔力で痛みを封じる。自分の魔力とソードの魔力が体内で交差して混沌とし、ますます核の場所がつかみにくくなる。
 いったいどこに。
 痛覚を完全に封じ、全神経を集中させる。グレンは胸に異質なものを感じ取った。
「あった」
 持てる全ての魔力を注ぎ込んだ。
 胸で何かが割れるような音がした。核は粉々になって砕け散り、跡形もなく消えた。
 力尽きて落下してきたグレンをソードは両腕にしっかりと抱き留めた。
「このくらいにしておこうか」
 ソードの低い声が心地よく通り抜けていく。
「ちょっと、待って」
 グレンはソードに手伝ってもらいながら、体を起こした。そして、すぐにソードの胸に手を当てた。柔らかい光がグレンの手から溢れる。
「お前、まだそんな力が残っていたのか?」
 頷く代わりにグレンは手当てを続けながら優しく笑って返した。
「私はいい。お前の体を先に治療しろ」
「大丈夫だよ」
 ソードの傷口はあっという間に塞がった。
「私のを使え」
 ソードは左手でグレンの右手を握ってグレンの胸に当てた。強い魔力が流れてくる。大きな光がグレンの全身を包み込む。
「ありがとう」
 まだ痛むところはあるが、かなり回復したようだ。

次回更新予定日:2016/04/23

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