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「生血が欲しくてたまらないだろう。もうソードから吸血してだいぶ経つはずだからな」
「吸……血?」
壁に立ったまま寄りかからされている状態のエストルが聞こえないほど小さな声でつぶやく。肩をつかんだままのグレンは目をぎゅっとつぶって下を向いている。
抑えられない。今すぐにでもエストルの喉元に噛みついてしまいそうだった。夢の中と同じように理性が利かなくなってきている。
「エストル……」
グレンはエストルを見つめた。エストルは怯えた目をしていなかった。驚いたような目をしていなかった。いつもの冷静な目でもなかった。疲れ切ったような、何かを諦めてしまったような目だった。抵抗する気はないようだった。
鈍い音がした。
「何?」
グレンの手を離れたエストルの体はそのまま壁伝いに倒れて、壁にもたれかかって座る姿勢になった。驚いたのは〈追跡者〉の方だった。
グレンは〈追跡者〉の首筋に噛みついていた。だが、驚いたのも束の間、〈追跡者〉はグレンを振り払うことはせず、にやりと笑った。
「マスターヴァンパイアの血を吸ってただで済むと思っているのか」
そう言われた瞬間、飲み込んだはずの血が逆流してきた。体がヴァンパイアの血を拒絶している。このままだとせっかく飲み込んだ血を全部吐き出してしまう。グレンは口を塞ぐように再び〈追跡者〉の首筋に食らいついた。そして、強引にその血を飲み込んだ。
「何、だと」
グレンは苦しくなって〈追跡者〉の体を放り出し、もがき始めた。その姿を〈追跡者〉は楽しそうに眺めた。
「ほう。人間が純粋なマスターヴァンパイアの血を取り入れるとこうなるのか」
足りない。まだ足りない。
グレンはもがきながらも〈追跡者〉の喉元目がけて飛びかかろうとした。そのとき、エストルが後ろからグレンの腰に手を回し、ぐいっと自分の方に引っ張った。グレンはそのままエストルを背に壁に引きずられた。
「もういい。やめてくれ、グレン」
苦しそうな声でエストルが言う。
「私の、血を吸え」
エストルがグレンの右手を握り、腰に携帯している剣の鞘に導いた。グレンは苦痛のため息を切らしながらもエストルの言葉を理解した。
エストルは気づいている。
グレンは迷わず振り返ってエストルの喉元に牙を突き立てようとした。すると、先にエストルがグレンの頭を引き寄せ、首筋を噛ませた。エストルは少しいたそうな表情をしただけで声を上げなかった。グレンは構わず血をすすり始めた。
次回更新予定日:2016/12/17
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「吸……血?」
壁に立ったまま寄りかからされている状態のエストルが聞こえないほど小さな声でつぶやく。肩をつかんだままのグレンは目をぎゅっとつぶって下を向いている。
抑えられない。今すぐにでもエストルの喉元に噛みついてしまいそうだった。夢の中と同じように理性が利かなくなってきている。
「エストル……」
グレンはエストルを見つめた。エストルは怯えた目をしていなかった。驚いたような目をしていなかった。いつもの冷静な目でもなかった。疲れ切ったような、何かを諦めてしまったような目だった。抵抗する気はないようだった。
鈍い音がした。
「何?」
グレンの手を離れたエストルの体はそのまま壁伝いに倒れて、壁にもたれかかって座る姿勢になった。驚いたのは〈追跡者〉の方だった。
グレンは〈追跡者〉の首筋に噛みついていた。だが、驚いたのも束の間、〈追跡者〉はグレンを振り払うことはせず、にやりと笑った。
「マスターヴァンパイアの血を吸ってただで済むと思っているのか」
そう言われた瞬間、飲み込んだはずの血が逆流してきた。体がヴァンパイアの血を拒絶している。このままだとせっかく飲み込んだ血を全部吐き出してしまう。グレンは口を塞ぐように再び〈追跡者〉の首筋に食らいついた。そして、強引にその血を飲み込んだ。
「何、だと」
グレンは苦しくなって〈追跡者〉の体を放り出し、もがき始めた。その姿を〈追跡者〉は楽しそうに眺めた。
「ほう。人間が純粋なマスターヴァンパイアの血を取り入れるとこうなるのか」
足りない。まだ足りない。
グレンはもがきながらも〈追跡者〉の喉元目がけて飛びかかろうとした。そのとき、エストルが後ろからグレンの腰に手を回し、ぐいっと自分の方に引っ張った。グレンはそのままエストルを背に壁に引きずられた。
「もういい。やめてくれ、グレン」
苦しそうな声でエストルが言う。
「私の、血を吸え」
エストルがグレンの右手を握り、腰に携帯している剣の鞘に導いた。グレンは苦痛のため息を切らしながらもエストルの言葉を理解した。
エストルは気づいている。
グレンは迷わず振り返ってエストルの喉元に牙を突き立てようとした。すると、先にエストルがグレンの頭を引き寄せ、首筋を噛ませた。エストルは少しいたそうな表情をしただけで声を上げなかった。グレンは構わず血をすすり始めた。
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