魔珠 忍者ブログ
オリジナルファンタジー小説『魔珠』を連載しています。 前作『ヴィリジアン』も公開しています。
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「すごく面白いというか……実は最近クレサック将軍の任務についていってばかりで、その……」
「上級兵士の通常業務はよく分かりません、か?」
「いや。うん。そんなこともないんだけど」
 困惑した様子のグレンを見ていておかしくなったのか、エストルは笑い出した。
「で、どうだ、クレサック将軍の補佐は?」
 すると、グレンの緑色の瞳がぱっと明るくなった。
「今まで経験したことのないことばかりで。魔獣は今まで会ったことのないような強い魔獣だし、ヴァンパイアも噛みつかれたらおしまいだからすごい緊張感で。毎日学ぶことが多くて、すごく刺激的なんだ」
「そうか。それは良かった」
 エストルはグレンの話を聞いて嬉しそうな顔をして席を立った。
「実はな、グレン」
 書類が束ねて置いてある机の方に行くと、エストルは一枚の紙を手にして戻ってきた。
「今日はこれを渡そうと思って」
 目の前にその紙を置くと、グレンが目を通し始める前に言った。
「グレン、お前を今日づけでムーンホルン王国王騎士に任命する」
「は? 王騎士?」
 グレンは急いで紙に書かれている文字を読んだ。確かにグレンの名前だった。国王のサインもある。
「なんで?」
 王騎士は三人いる。これまでずっと三人だった。
「クレサックが引退したいと言っているんだ。そろそろ体力的にきついらしい」
「まだあんなに切れのいい動きをされるのに」
「あの状態を維持するために努力してきたが、それがもう限界なのだと言っていた。王騎士の任務はあの状態以上でなければ危険だ」
「そうなんだ……」
 厳しい現実を突きつけられてグレンは納得せざるを得なかった。
「とにかく」
 エストルはグレンの方に歩いてきて両手を握った。
「おめでとう。そして、紹介が遅れたが、私は宰相のエストルだ。任務の説明をしたり、報告を聞いたり、お前たちの任務の手伝いをさせてもらっている。グレン、これからは一緒に仕事をしていくことになる。よろしく」
「こちらこそ。また、よろしくね」
 エストルと仕事ができるということは嬉しかった。これほど頼もしい上司はいない。エストルがどれくらい優れた人物かということはよく知っている。士官学校で散々見てきた。
 グレンは笑顔を返しながら、エストルのしっかりとした手の感触を確かめた。

次回更新予定日:2017/04/29

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「よくやった、グレン」
 クレサックに肩を叩かれて、グレンも笑顔になる。
「さて。魔獣も倒したし、帰るとするか」
 体が疲れて重かったので、二人ともゆっくり歩き出した。
「しっかし、あんなに機敏な動きをする魔獣だとは思っていなかった。すごいスピードだったなあ」
 クレサックは軽く伸びをした。

 その後も次々と魔獣、ヴァンパイア、ゾンビの討伐など事あるごとにクレサックの任務に連れて行かれた。
「そのうち俺たち追い越すんじゃないか」
 直属ではなかったが、時々クレサックの任務に参加していたデュランがグレンをからかう。
「何言ってるんだ。追い越されないように訓練行くぞ」
 クレッチが剣の手入れを済ませ、さっさと立ち上がる。グレンも慌てて剣を鞘に戻し、兵舎を出ようとすると、管理人に手紙を渡された。
「またクレサック将軍からお呼び出しか?」
「デュラン」
「分かった分かった。見ないって」
「行くぞ」
 デュランを無理やりクレッチが引っ張っていく。デュランをクレッチが連れて行ってくれたので、グレンはその場で封を開けた。差出人の名前を見てグレンは驚きの表情を浮かべる。
 宰相エストルからだった。

「失礼します」
 グレンを部屋に入れ、エストルはドアを閉めた。
「どうぞ」
 席を勧めて自分も座る。
「上級兵士の辞令を出したとき以来だな。元気にしていたか、グレン?」
「はい。あの」
 すると、エストルが優しい目で笑った。
「二人のときは堅苦しい言葉遣いはやめよう」
「あ、うん」
 少し戸惑いながらグレンが答える。
「どうだ、上級兵士の仕事は?」
 エストルがグレンの前にカップを置きながら聞く。グレンは礼を言って一口飲み込んでから話し始めた。

次回更新予定日:2017/04/22

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ドアの前に立ってここで良かっただろうかと少し不安になる。グレンは一度深呼吸して名乗った。
「グレンです」
「入れ」
 中からクレサックの声がしてほっと胸を撫で下ろす。
「失礼します」
 グレンが部屋に入ると、クレサックが顔を上げた。
「そこに座ってくれ」
 席を勧められてグレンは座った。
「実は」
 余計な話は一切せず、クレサックは急に切り出した。
「明日から魔獣討伐に行くのだが、一緒に来てくれないか?」
 一瞬どういうことか考えたが、クレサックがソフィアと違い、割と直属の部下でない上級兵士を任務に連れて行くことも多いと他の上級兵士たちが話していたのを思い出して、慌てて返事をした。
「は、はい。あの、王騎士の方の任務に参加させていただくのは初めてなのですが」
「大丈夫だ。お前の実力なら充分だ。分かっている情報を説明するぞ」
 そういうと、てきぱきと説明を始めた。グレンは聞き逃しがないように注意深く耳を傾けた。
「よし。準備をしてこい。明日の朝、出発するぞ」
「はい。失礼します」
 グレンは部屋に戻ると、早速支度に取りかかった。

 初めて討伐しに行った魔獣は森の奥に棲む角を持つ魔獣だった。巨大な猛牛といった感じの容姿だった。
「あれか」
 身を隠して魔獣を観察する。
「まずは動きを封じる。私が引きつけるから、お前はその間に奴の脚をやれ」
 クレサックに指示されてグレンはうなずく。
「準備はいいか? 行くぞ」
 クレサックが飛び出すと、一瞬だけタイミングを遅らせてグレンが後ろに回り込んだ。魔獣はすぐにクレサックに気づき、すさまじいスピードで突進してきた。グレンはそのスピードに驚いたが、すぐに集中して相手の動きを捕らえた。素速く剣を抜いて魔獣に飛び込むと、四本の足を立て続けに斬っていく。ばたんと大きな音を立てながら魔獣がくずおれると、クレサックが地を蹴ってジャンプし、背中に剣を突き立てた。切り裂かれた背中から光が溢れ、その光が膨張して魔獣を呑み込んでいった。光は小さくなり、やがて消滅した。そこに魔獣の姿はなかった。

次回更新予定日:2017/04/15

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「同期?」
 若いとは思っていたが、エストルと同期とは。やはりあの青年、ただ者ではない。
「よく手合わせしてもらった。一度も勝てなかったがな」
 グレンの話をするエストルはいつもとは違って柔らかい表情をしていた。その理由がクレサックには何となく分かった。グレンにはそういう力があるのだ。
「エストル様、先日、王騎士の職を辞して、シャロンの指導をしたいと申したこと、覚えておいでですよね」
「もちろんだ」
「王騎士の職、グレンに継いでもらってはいかがでしょうか?」
 全く考えていなかった。こんなことになるなんて。
「実力は充分です。何ヶ月か訓練すれば、王騎士としてやっていけます。それに」
 クレサックは静かに言った。
「ヴィリジアンの瞳を持っています」

 一週間ほどしてからだった。いつも通り早朝の素振り程度の訓練を終えて、兵舎の玄関を通って一旦部屋に戻ろうとすると、管理人に手紙を渡された。グレンは立ち止まって封を開いた。読み終わってカードを封筒に入れようとすると、後ろから声がした。
「お誘いか?」
 振り返ると、デュランがいた。もともと誰にでも気さくに話しかけるタイプらしく、グレンが上級兵士になっていちばん最初に話しかけてくれたのもデュランだった。だから、上級兵士の中でもいちばん最初に名前を覚えた。
「また人の手紙のぞいて」
 さらに後ろからクレッチがやってくる。クレッチはデュランのようににぎやかな性格ではないが、いつもデュランと一緒にいて、時々はめを外すデュランのブレーキ役である。
「いいか、グレン。ここでは手紙の封は必ず自室に戻ってから開けるんだ。そうしないと、全部デュランに筒抜けだぞ」
「いいじゃないか。あんな驚いた顔してたら誰だって見たくなるだろ」
 そんなに驚いた顔をしていたのだろうか。
「それに、クレサック将軍がそんな細かいこと気になさらないって」
「それはそうだけど」
 クレッチがぶつぶつ言っていたが、デュランは全く聞いていない。
「じゃあな」
「おい、こら、待て」
 グレンは二人を何となく見送った。

次回更新予定日:2017/04/08

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「何ともないですか?」
 あっという間に治癒は完了していた。この若者の剣裁きにも魔力にも驚いたが、治癒魔法の能力は格別だった。王騎士の中でもこれほどの治癒魔法の使い手はいない。
「良い魔力を持っているな」
「ありがとうございます」
 クレサックが率直な印象を述べると、グレンは嬉しそうに礼を言った。屈託のない笑顔だった。
「お前、しばらく立てないだろう」
「衝撃がとても大きかったので。少し休んで立てるようになってから動きます」
「すまないな。あまりにも強いので、ついつい実力を試したくなってしまった」
「いえ。王騎士の方に一対一で相手をしていただけるなんて。本当にありがとうございました」
「ああ。またぜひ相手になってくれ」
 グレンの笑顔を見ていると、自然に笑顔がこぼれてきた。何だろう。この青年は不思議な力を持っている。
 クレサックは心地よい疲れを感じながら自室に戻った。

 午後、謁見室で国王から新たな任務を命じられ、詳細を聞くためにエストルの執務室にいた。
「今、分かっている魔獣の情報はこんなものだ。何か質問はあるか?」
 一通り説明を終えたエストルがクレサックに尋ねた。
「いえ。特にありません。ところで、エストル様」
 クレサックが話を切り出す。
「今朝、久しぶりに上級兵士たちと手合わせしてきました」
「そうか。皆の腕は上がっていたか?」
「はい。皆、上達していました。ですが、一人見たことのない顔がいましてね。まだ上級兵士になって日が浅いと行っていましたが、やたらと強いのです」
 エストルは興味を惹かれたらしく真剣な表情になった。
「一対一で手合わせしてみましたが、いい相手になりましたよ」
「何? 王騎士と互角で戦ったというのか?」
「はい。グレンという者なのですが、ご存じですか?」
 エストルは一瞬驚いた表情をしたが、だんだん笑いが込み上げてきて、耐えきれなくなってにやりと微笑した。
「グレンか。ああ。よく知っている。士官学校で同期だった」

次回更新予定日:2017/04/01

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