魔珠 第6章 モーレ(1) 浄化という選択肢 忍者ブログ
オリジナルファンタジー小説『魔珠』を連載しています。 前作『ヴィリジアン』も公開しています。
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「またか」
 ムーンホルン国王セレストは苦々しい顔をして言った。
 またヴァンパイア討伐に王騎士を派遣した町がヴァンパイア化されていなかったという報告を受けたためだ。
「これで何度目だ?」
「五件目です」
 宰相エストルが即答した。
「まあよい。引き続きソフィアはノームに、ソードはレティアにヴァンパイア討伐。グレンはモーレに魔獣討伐。今日はゆっくり休め」
「はっ」
 三人は一礼して退室した。
「変ね。急に誤った情報が氾濫し出すなんて」
 ソフィアが口を開く。
「できるだけ全土をくまなく歩いてどのような状況になっているのか全体像をつかみたいところだ」
 珍しくソードが自分の考えを述べた。
「ソード」
 後ろからエストルが声をかける。二人はエストルの執務室の方に歩いていった。早い足取りだ。これから順番にエストルから任務の詳細を聞く。ソードが最初で、ソフィア、グレンの順だ。
「順番来るまで少し休もうかな」
 隣でソフィアが伸びをする。
「お疲れ?」
「今回結構遠かったから」
 いつものように朗らかに会話を交わしていたが、別れ際になるとソフィアは険しい顔をした。
「最近、強い魔獣が多くなっているような気がするの。気をつけて」
「うん。ありがとう」
 グレンはソフィアと別れて部屋に戻ると、急にまたあの発作に襲われた。
 血が、欲しい。
 ふとヴィリジアンのことが頭をよぎる。
 もしあの剣で自分を斬ったら、元の吸血する必要のない人間に戻れるのだろうか。
 でも、そうすると、このヴァンパイアになって得られた桁違いの力も消滅してしまうのだろうか。
 今は駄目だ。この力がなければ上級ヴァンパイアを倒すことはできない。このヴァンパイアの力は上級ヴァンパイアを倒すために必要だ。
 後でソードに会いに行こう。またソードの血を、吸わせてもらおう。

次回更新予定日:2016/01/23

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