魔珠 忍者ブログ
オリジナルファンタジー小説『魔珠』を連載しています。 前作『ヴィリジアン』も公開しています。
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「でも、本当は分かっているんだろうな」
 ウィンターは天井を見上げた。
「お前が一人で敵わないような相手なら、王騎士と同等の実力を持たない者が何人か加わっても、どうにもならないということ」
「それでもそう言わずにはいられないんだ」
「お前が逆の立場でもそうするだろう」
「まあそうかなあ」
 グレンはしばし考える。そして、くすっと笑い出した。
「僕だったら、『僕が行く!』とか、ぶっちぎれて剣持って城を出て行きそう」
「そうだな。お前ならそうするか」
 ウィンターは苦笑した。
「やっぱりエストルってすごい人なんだね。友人の命が懸かっていても、使命と責任はちゃんと果たすんだ」
 窓の外を見ると、先ほどクレサックが言っていたように深い緑が広がっている。
「僕にはとてもできないよ」
「簡単なことではない。エストルだからこそできるのだろう」
「うん。でもね、そのエストルが言ってくれたんだ。僕のおかげで宰相の仕事をこなせるんだって」
 グレンは目を閉じた。
「あのエストルが僕のこと心の支えにしてくれているんだ。それってすごく嬉しいことだと思うんだ」
 ウィンターは黙ってうなずいた。
「僕、エストルの気持ち、少し分かるような気がするんだ」
 ヴィリジアンの瞳が少し揺れている。
「僕は多くを知りすぎてしまった。城にいるときには誰にも話せない。一人で抱え込んで。誰が敵で誰が味方なのかも分からなくて疑心暗鬼になって。いつもうっかり口を滑らせてしまっていないだろうか、怪しまれるような行動を取っていないだろうか、って不安になったりして。何か重くのしかかってくる感じ」
 すると、ウィンターが少し表情を曇らせた。
「お前には、難しい立ち回りを強いて申し訳ないと思っている。だから、できるかぎりのことはする。だが」
 ウィンターの口元がほころんだ。
「お前がエストルの支えとなっているように、エストルもお前を支えてくれているのではないか?」
 エストルが抱え込んでいることが具体的に分かるわけではない。グレンに話せないこともたくさんあるだろう。それでもエストルの立場を何となく理解して寄り添ってきた。エストルもグレンのことを何となく理解した上であのように振る舞っているに違いない。
「そうだね」
 少し気持ちが晴れたような気がした。
「早く体治さないと」
 グレンは目を閉じた。また抱え込むことが一気に増えて疲れが出たのか、すぐに眠りについた。

次回更新予定日:2016/01/16

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頭の中が真っ白になった。状況は想像していた以上に悪い。
「セレストはヴィリジアンを欲しがっているだろう。せっかくヴァンパイア化した人間を浄化されてしまっては都合が悪い。それにお前にはまだ他にやってもらいたいことがある」
「王騎士として、情報を集め、適切に対応すること」
 呟くと、責任がずっしりと重くのしかかってきた。
「だから、しばらくこの剣の世話は私に任せて」
 シャロンが明るい声で言いながら、ヴィリジアンの柄に手をかける。
「うん」
 笑顔で剣を返したが、不安感は逆に増していく。
「とりあえず今はゆっくり休め。まだ体に力が入らないだろう」
「あ、はい。ありがとうございます」
「ところで、クレッチとデュランは元気にしているか?」
「あ、はい」
 クレッチとデュランは王騎士になるときにクレサックがつけてくれた部下だった。
「最近はあまりゆっくり話す機会がないのですが、元気そうにはしています」
 エストルに先日指摘されたように最近あまり二人を任務に連れて行かない。城内で短い会話をする程度だ。
「あまり部下を連れて行かないらしいな。まあウィンターやシャロンのこともあるから連れて行きにくいとは思うが」
「はい。一人の方が動きやすいような気がして」
「そうかもな」
 クレサックはぽつりと呟いた。
「とにかく無茶だけはしないでくれ」
 言い残してクレサックとシャロンは部屋を出ていった。ドアが静かに閉じる。
「もうしばらく、ここにいてもいいのかな」
「好きなだけいていい」
 ウィンターが布団をかけ直しながら言った。
「まだ、力が戻らなくてふらふらするんだ。クレサック将軍のおっしゃっていたように。それに、右腕が思うように動かない」
「当然だ。あれだけの猛毒を喰らったあとに膨大な魔力を消費したんだ」
「エストルに、言われたんだ。部下は連れて行かないのか、って」
「士官学校時代からの友人なんだろう。心配して当然だ」
「うん。いつも僕のこと心配してくれて」

次回更新予定日:2016/01/09

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「好都合?」
「そう。シャロンの、瞳の色だ」
「シャロンの、瞳の色……」
 アウルで一目見たときから気になっていた。自分と同じ、不思議な青緑色の瞳。
「ヴィリジアンの、瞳」
 ウィンターに言われて剣をじっくり見る。その柄にはめ込まれた宝石の色は確かにシャロンの瞳と同じ色をしていた。
「ヴィリジアンは同じ色の瞳をした者だけを使い手として選ぶ。他の者には剣の魔力を引き出せない。封印を解くことすらできない」
「私も真実を聞かされ、ウィンターに協力することにした。まずはシャロンに剣術を教えながら、ヴィリジアンを探す。だが、王騎士という立場ではそれが叶わなかった。そこで王騎士を他の誰かに替わってもらおうと、後任の候補を探していた。そんなときに見つけたのがグレン、お前だ」
 クレサックはグレンの澄んだ瞳をじっと見つめた。
「若かったが飛び抜けた素質と魔力、それに実力があった。そして、ヴィリジアンの瞳」
 クレサックはシャロンから剣を受け取った。剣の光が消えた。それを確認して、今度はグレンの方に柄を向けた。グレンはおそるおそる剣を手に取った。すると、再び剣が青緑色に輝きだした。
「グレン、お前もまた、ヴィリジアンの使い手だ」
「それでは僕にもヴァンパイア化した人たちを浄化できるのですか?」
「できる。だが、まだこれをお前に渡すわけにはいかない」
「陛下が、信用できないのですね」
 肩を落としてグレンは言った。クレサックは力強くうなずく。すると、ウィンターがムーンホルンのターニングポイントとなった日のことの真相を語り始めた。
「エストルから聞いているだろう。ある日を境にセレストという人間が変わってしまったということを。あの日、セレストは狩りに出かけ、森で一人の少女と出会った。少女のコードネームは<003 告知者>。テルウィングが開発した、いわゆる上級ヴァンパイアだ」
「そんな。じゃあ陛下は……」
「いや、セレストはヴァンパイア化したわけではない。そのときにはまだゲートは開いていなかった。ヴァンパイアを送り込んでセレストを吸血することはできない」
「だったら、その少女は?」
「ホログラムだ。<告知者>は離れた場所に鏡像や思念を送る能力を持つ。強い呪いのようなものに操られていたと考えた方がいい。だが」
 ウィンターは続けた。
「ゲートが開いた後、<告知者>はムーンホルンに来たはずだ。そして、セレストと接触したはず。そのとき何らかの処置を施したと見ていいだろう。最初の呪術でこんなに長期間安定して人を操れるとは考えにくいからな。ただ、ヴァンパイア化しているとは考えにくい。吸血されたあとの個体の変化は予測不能だ。セレストを操りたいと思うのなら、他のより確実な、例えば呪術などの方法を選んだ方がいい」

次回更新予定日:2016/01/02

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「ああ。紹介しよう。姪のシャロンだ。アウルで会っただろう?」
「姪?」
「そう。私、叔父さんから剣の使い方教えてもらったの」
 そう言いながらシャロンが鞘に収まったままの剣を置く。
「それ……」
「そうだ。見たか? あの剣の力」
「あ、はい。いえ、あの、ヴァンパイアを、元どおりに?」
 しどろもどろな回答にクレサックは苦笑した。
「これは」
 クレサックが鞘から剣を抜く。
「ヴィリジアンだよ」
「ヴィリジアン? 魔剣……ヴィリジアン?」
 がたっとグレンが体を起こす。痛みが走ってすぐに倒れる。
「グレン、大丈夫か?」
「だい、じょうぶ。あの、ヴィリジアンってエリーの洞窟に封印されていた、あのヴィリジアンなんですか? どうして、ここに?」
「取りに行ったんだ」
「倒したんですか、ドラゴン?」
「大変だったぞ。三人がかりで」
 いたずらっぽくクレサックが笑う。
「ヴィリジアンは魔剣だ。魔剣はヴァンパイアの手に渡ると危険だ。だが、ヴィリジアンは少し特殊な魔剣だ。使い手を選ぶ。例えば私には使えない」
 クレサックはシャロンに剣を渡した。シャロンが両手で剣を受け取ると、剣にはめ込んである青緑色の宝石が光を帯びた。ついで刃が同じ青緑色に輝きだした。
「シャロンはヴィリジアンの使い手だ。ヴァンパイアの核はカーマナイトという石が原料だ。ヴァンパイアの牙にかかった人間はカーマナイトの成分によってヴァンパイア化する。そして、ヴィリジアンにはカーマナイトを中和する力がある」
「それでヴァンパイア化した人たちが元に戻る?」
「そういうことだ」
「テルウィングでヴィリジアンのことを知った」
 ウィンターが言った。
「それでゲートを通ってムーンホルンに来た。テルウィングにある町はほとんどヴァンパイア化してしまった。ヴィリジアンに懸けるしかないと思った。それにムーンホルンをテルウィングのようにするわけにはいかない。そんなときクレサックと出会った。クレサックなら信用できると思った。それに、クレサックのことを調べているうちに、大変好都合なことに気がついたんだ」

次回更新予定日:2015/12/26

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「久しぶりだな。相当腕を上げたようだな」
「そんな。こんな姿で……お恥ずかしいかぎりです」
 激しく混乱している。顔を赤らめるグレンをクレサックは優しい眼差しで見た。
「そんなことはない。お前ほどの腕がなければ、あの状況から生還することは難しかった」
 あの状況?
 グレンはぼんやりと記憶をたどった。
 インディゴ鉱山に捜索に行って、クラーケン型の魔獣に腕を刺されて――
「あの魔獣の毒は猛毒だ。お前の治癒力で初期段階に解毒をしていなかったら死んでいた」
 グレンの表情がこわばった。今思い出しても怖い。あのときは本当にもう駄目かと思った。
「ウィンターが来てくれなかったら……死んでた」
「一人では無理だ。私も魔物がお前に気を取られていたからこそ倒せた。それにお前の魔力を借りなければあれだけの巨体は斬れなかった」
「そう……それより……」
「ああ。そうだな」
 クレサックはグレンに笑いかけた。
「ここは、私の家。隠れ家だ」
「隠れ家?」
「そう。隠れ家だ。窓の外を見れば分かるが、森の中にある。辺りには特殊な結界が張ってあって、私が認めた者しか入れない。それ以外の者はここにたどり着けないようになっている」
「なぜそんなことを?」
「ヴァンパイアを殲滅するためだ」
 グレンは目を丸くした。クレサックは続けた。
「王騎士だった頃、とある村にヴァンパイア討伐に行き、ウィンターと出会った。そして、真実を知った。お前も聞いたはずだ。ヴァンパイアがテルウィングの生物兵器であり、それがゲートを介して送り込まれてきたのだと」
 そのとき、隣の部屋でドアの開く音がした。
「ただいま」
 またしても聞き覚えのある声だ。
「あ、目、覚めたの?」
 顔を覗かせたのはシャロンだった。グレンは驚きのあまり声が出なくなった。

次回更新予定日:2015/12/19

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