スイははっとした。
人間。
そう。人間は空気中に漂っているエネルギーを集め、魔力として体内に蓄積し、それを利用して魔法を発動する。個人差はあるが、例えば魔術師ならば、蓄積できる容量は相当大きいはずだ。
実験する必要さえない。人間こそが魔力を蓄積するのに最適な〈器〉なのだ。
「人間の体内に魔珠を埋め込み、大量の魔力を注いでやると、今まで魔珠から抽出できていたエネルギーの二、三倍程度のエネルギーを瞬時に抽出することが可能だ。ちょうどいい。エーベル君」
五人で何かの装置の前でデータを見ながら言葉を交わしていた若い魔術師が振り返る。レヴィリンは途中にあった保管庫の扉のロックを魔力で解除し、中から魔珠を一つ取り出すと、ゆっくりとエーベルの方に近づけていった。
「魔結晶を生成する工程をスイ君に見てもらおうと思う。〈器〉になってくれないかね」
それを聞いた瞬間、エーベルの顔が強ばり、体が動いた。一緒に話をしていた魔術師のうち、体格の良い二人がエーベルの腕をつかんだ。エーベルはうなだれてつぶやいた。
「やだ……やだ……」
視点が定まっていない。
「待ってください」
ただならぬ空気を察知してスイが魔珠を持ったレヴィリンとエーベルの間に素速く割り込む。
「〈器〉になった人に、何か影響が出るのですか?」
すると、レヴィリンが平然と答えた。
「激しい苦痛に見舞われるのだよ。魔力を注がれたときにね」
誰かに苦しみを負わせることも厭わず、魔結晶と呼ばれる魔珠の複製品を生成し、兵器を作っていたというのか。
「何の犠牲もなく、これだけのことを成し遂げることはできんよ」
兵器を作るために誰かを犠牲にしているのであれば、マーラル王とやっていることは何ら変わりはない。
「では、続けるかね」
「やめてください」
魔珠を手にしたレヴィリンをスイはもう一度止めた。レヴィリンは眉をひそめた。
「君は魔珠担当官だろう。その目でどのように魔結晶が作られるか見て、その情報をどう扱うのか決めるのが君の役目。違うかね?」
そのとおりだ。だが。
「できるだけ正確な情報は欲しいです。ですが、この反応は尋常ではありません」
もちろん時としてどうやってでも情報を手に入れなければならないこともあるが、今は違う。受ける苦痛と情報の重要性の程度で判断しても、エーベルの反応を見る限り、受ける苦痛の方が重そうだ。情報は実際にこの目で見なくても、工程さえ分かればそれでいい。どの程度の苦痛が〈器〉にかかるのかということと、本当にその工程で魔結晶ができるのかということはこの場で検証できないが。
次回更新予定日:2019/12/21
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