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「随分抵抗したんだね。魔力がほとんど残っていない」
優しく笑いかけたが、クレッチの表情は強ばったまま解れない。
「申し訳、ございません。力が、及ばなくて」
「ううん、君はよくがんばった」
グレンの優しく微笑む顔を見ていると、なぜか落ち着く。これはきっと持って生まれたものなのだと思う。クレッチは難しいことは後にして、気持ちを切り替えようと努めた。切り替えを進めようと思考を巡らせていると、ふと疑問が湧いてきた。
「なぜ、私が上級ヴァンパイアに出くわしたことが分かったのですか?」
「デュランに夕食に誘われたんだ。君と約束しているから三人でどうかって」
「そうだったんですか」
「君が時間になっても戻らないから探しに行ってみようってことになって」
「デュランは?」
「今、出かけている。詰め所に報告に行くって」
そのとき、ドアがばたんと開いた。
「ただいま戻りました」
デュランだった。ぼうっとしていて気にも留めなかったが、あれから結構時間が経っていたらしい。やはり魔力が不足している分、疲労が出ている。
「お疲れ様」
「あ、クレッチ、気がついたか?」
すぐにクレッチを見つけ、デュランは安心したような顔をした。
「起き上がれるか? 場所は変わっちゃったけど、三人で食事しよう。グレン将軍のおごりだ」
紙袋からてきぱきと買ってきた食料を出しながら、デュランは言った。
「どう?」
「あ、大丈夫です」
「お腹、少しは空いてる?」
グレンが聞くと、クレッチは頭をかいた。
「何だか、よく分からないです」
魔力を奪われて力が入らないのだ。当然だ。だが、クレッチは笑顔になってベッドから出てきた.グレンは近くに置いていた上着を羽織らせた。
「僕も実はソードに手合わせをお願いして、結構派手にやって魔力使い果たしちゃって。まだ回復できてないんだ」
グレンは苦笑いする。
「食べておかないと、魔力の回復が遅れるから」
「グレン将軍からの命令だぞ」
デュランが冗談めかして言うと、クレッチも、
「参ったな」
と言いながら席についた。
「申し訳ございません。こんなところで食事するはずじゃなかったのに」
クレッチが謝る。
「いいよ。どこでも。三人こうして久しぶりに話ができれば」
グレンが笑う。
「グレン将軍、予定どおり、旅の話聞かせてくださいよ」
「そうだったね」
デュランからグラスを受け取りながら、グレンは微笑む。三人のささやかな晩餐が始まった。
次回更新予定日:2016/06/25
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優しく笑いかけたが、クレッチの表情は強ばったまま解れない。
「申し訳、ございません。力が、及ばなくて」
「ううん、君はよくがんばった」
グレンの優しく微笑む顔を見ていると、なぜか落ち着く。これはきっと持って生まれたものなのだと思う。クレッチは難しいことは後にして、気持ちを切り替えようと努めた。切り替えを進めようと思考を巡らせていると、ふと疑問が湧いてきた。
「なぜ、私が上級ヴァンパイアに出くわしたことが分かったのですか?」
「デュランに夕食に誘われたんだ。君と約束しているから三人でどうかって」
「そうだったんですか」
「君が時間になっても戻らないから探しに行ってみようってことになって」
「デュランは?」
「今、出かけている。詰め所に報告に行くって」
そのとき、ドアがばたんと開いた。
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「お疲れ様」
「あ、クレッチ、気がついたか?」
すぐにクレッチを見つけ、デュランは安心したような顔をした。
「起き上がれるか? 場所は変わっちゃったけど、三人で食事しよう。グレン将軍のおごりだ」
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「どう?」
「あ、大丈夫です」
「お腹、少しは空いてる?」
グレンが聞くと、クレッチは頭をかいた。
「何だか、よく分からないです」
魔力を奪われて力が入らないのだ。当然だ。だが、クレッチは笑顔になってベッドから出てきた.グレンは近くに置いていた上着を羽織らせた。
「僕も実はソードに手合わせをお願いして、結構派手にやって魔力使い果たしちゃって。まだ回復できてないんだ」
グレンは苦笑いする。
「食べておかないと、魔力の回復が遅れるから」
「グレン将軍からの命令だぞ」
デュランが冗談めかして言うと、クレッチも、
「参ったな」
と言いながら席についた。
「申し訳ございません。こんなところで食事するはずじゃなかったのに」
クレッチが謝る。
「いいよ。どこでも。三人こうして久しぶりに話ができれば」
グレンが笑う。
「グレン将軍、予定どおり、旅の話聞かせてくださいよ」
「そうだったね」
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「本当に、魔力が目的だったのだろうか」
不意につぶやいたエストルをデュランは見た。デュランは素速くエストルの思考回路を読み取り、即答した。
「何かグレン将軍をつぶしにかかっているような感じもします」
デュランの回答にエストルはうなずいた。
クレッチの記憶をのぞいたのは単純にグレンに関する情報を引き出すためだろう。そのためにグレンの部下であるクレッチを狙った。だが、クレッチの役割はそれだけではなかった。クレッチとデュランは裏ではエストルの足として各地を回り情報収集をしている。そのことが<追跡者>の知るところとなったわけだ。
「ところで、クレッチは?」
「はい。グレン将軍と部屋に運びました。グレン将軍によると、魔力がほとんどない状態で意識を失っているだけだということです。記憶をのぞかれないように抵抗したのでしょうか」
「そうか。がんばったのだな」
少しだけ口元が緩んだのを見て、デュランの表情がぱっと明るくなった。冷静でそんなに感情をあらわにすることはないエストルだが、部下への気遣いはいつも人一倍である。
「今、グレン将軍が付き添ってくださっています。少し休めば気がつくとおっしゃってました」
「分かった。報告、ご苦労だった。お前もそろそろ戻ってやれ」
「はい」
明るい声で答えると、デュランは消えた。一人になった薄暗い部屋でエストルはぼんやりと夜空を見た。
「次は私が狙われるかもしれないな」
ふと本棚に立てかけてある剣に目をやった。
「できることはしなければ」
「グレン将軍?」
急にがばっとクレッチが起き上がる。グレンも驚いたが、それ以上にクレッチが慌てている。
「私、なぜここに」
「落ち着いて、クレッチ」
グレンはそっと布団をかぶせながら、クレッチの体を倒してやった。そして、静かに言った。
「君は上級ヴァンパイアに会って意識を失って倒れた。上級ヴァンパイアは君の記憶をのぞいたと言った。覚えてる?」
「私の、記憶?」
表情は失われ、唇だけが動いていた。
次回更新予定日:2016/06/18
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不意につぶやいたエストルをデュランは見た。デュランは素速くエストルの思考回路を読み取り、即答した。
「何かグレン将軍をつぶしにかかっているような感じもします」
デュランの回答にエストルはうなずいた。
クレッチの記憶をのぞいたのは単純にグレンに関する情報を引き出すためだろう。そのためにグレンの部下であるクレッチを狙った。だが、クレッチの役割はそれだけではなかった。クレッチとデュランは裏ではエストルの足として各地を回り情報収集をしている。そのことが<追跡者>の知るところとなったわけだ。
「ところで、クレッチは?」
「はい。グレン将軍と部屋に運びました。グレン将軍によると、魔力がほとんどない状態で意識を失っているだけだということです。記憶をのぞかれないように抵抗したのでしょうか」
「そうか。がんばったのだな」
少しだけ口元が緩んだのを見て、デュランの表情がぱっと明るくなった。冷静でそんなに感情をあらわにすることはないエストルだが、部下への気遣いはいつも人一倍である。
「今、グレン将軍が付き添ってくださっています。少し休めば気がつくとおっしゃってました」
「分かった。報告、ご苦労だった。お前もそろそろ戻ってやれ」
「はい」
明るい声で答えると、デュランは消えた。一人になった薄暗い部屋でエストルはぼんやりと夜空を見た。
「次は私が狙われるかもしれないな」
ふと本棚に立てかけてある剣に目をやった。
「できることはしなければ」
「グレン将軍?」
急にがばっとクレッチが起き上がる。グレンも驚いたが、それ以上にクレッチが慌てている。
「私、なぜここに」
「落ち着いて、クレッチ」
グレンはそっと布団をかぶせながら、クレッチの体を倒してやった。そして、静かに言った。
「君は上級ヴァンパイアに会って意識を失って倒れた。上級ヴァンパイアは君の記憶をのぞいたと言った。覚えてる?」
「私の、記憶?」
表情は失われ、唇だけが動いていた。
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「はい。今日、クレッチと夕食の約束をしていたのですが、時間になっても森のパトロールから戻ってこないので、グレン将軍と探しに行ったのです」
「グレンと?」
エストルは怪訝そうな顔をした。
「はい。久しぶりだったので、グレン将軍も夕食にお誘いしたのです」
「なるほど」
「それで、森の中を探していると、異様な気配がして、突然意識を失ったクレッチを目の前に放り出されまして」
「上級ヴァンパイアが現れたということか」
「はい」
デュランは一呼吸置いて続けた。
「<002 追跡者>でした。<追跡者>はクレッチの記憶をのぞいたと言っていました」
「記憶?」
珍しくエストルに焦りが見られた。
「はい。そして、興味深かった、とも」
エストルは頭を抱えた。
「どこまで知られてしまったのだろう」
「分かりません。ただ」
「そうだな。おそらくお前たちと私がつながっていることを突き止めたのだろう」
「はい。おそらく」
苦しそうな表情をしてデュランが答える。
「その後、<追跡者>はどうしたのだ?」
「そのまま消えました」
最初からクレッチの記憶が目的だったというのか。クレッチはグレンの部下だ。
先日、<追跡者>が現れてグレンを襲った。以前グレンの前に現れた上級ヴァンパイアと同一人物だったとグレンは報告した。そのとき、グレンは魔力を奪われたと言っていた。そして、先日も魔力が底をついて、しばらく安静にしていたと報告している。しかも登山者の脅威となっていた魔獣は姿を消してしまったという。
ワイバーン型の魔獣というのは、間違いなくテルウィングによって開発された魔獣だ。であれば、上級ヴァンパイアが指示して動かすことも可能だ。最初から魔獣はグレンをおびき寄せるための餌だったのではないか。
<追跡者>が執拗にグレンにつきまとっているような気がしてきた。初めて会ったとき、<追跡者>はその魔力を気に入って吸収している。グレン自身がそう報告した。気になって今回も魔力を吸収されたか聞いた。答えはイエスだった。グレンの良質の魔力が目的だったということも考えられる。だが、今回はそれ以上に真実を多く知りすぎたグレンを危険因子としてマークして行動し始めているのではないかという懸念が払拭できない。
次回更新予定日:2016/06/11
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「はい」
デュランは一呼吸置いて続けた。
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「記憶?」
珍しくエストルに焦りが見られた。
「はい。そして、興味深かった、とも」
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「どこまで知られてしまったのだろう」
「分かりません。ただ」
「そうだな。おそらくお前たちと私がつながっていることを突き止めたのだろう」
「はい。おそらく」
苦しそうな表情をしてデュランが答える。
「その後、<追跡者>はどうしたのだ?」
「そのまま消えました」
最初からクレッチの記憶が目的だったというのか。クレッチはグレンの部下だ。
先日、<追跡者>が現れてグレンを襲った。以前グレンの前に現れた上級ヴァンパイアと同一人物だったとグレンは報告した。そのとき、グレンは魔力を奪われたと言っていた。そして、先日も魔力が底をついて、しばらく安静にしていたと報告している。しかも登山者の脅威となっていた魔獣は姿を消してしまったという。
ワイバーン型の魔獣というのは、間違いなくテルウィングによって開発された魔獣だ。であれば、上級ヴァンパイアが指示して動かすことも可能だ。最初から魔獣はグレンをおびき寄せるための餌だったのではないか。
<追跡者>が執拗にグレンにつきまとっているような気がしてきた。初めて会ったとき、<追跡者>はその魔力を気に入って吸収している。グレン自身がそう報告した。気になって今回も魔力を吸収されたか聞いた。答えはイエスだった。グレンの良質の魔力が目的だったということも考えられる。だが、今回はそれ以上に真実を多く知りすぎたグレンを危険因子としてマークして行動し始めているのではないかという懸念が払拭できない。
次回更新予定日:2016/06/11
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クレッチの部屋は兵舎にある。城の離れにある。
「先に詰め所に詳しい報告をしてきます。クレッチについていていただいてもいいですか?」
「うん。そうする」
二人はクレッチをベッドに降ろした。
「ねえ、帰りにこれで何か軽く食べられるもの買ってきてよ」
デュランに金貨を握らせる。
「クレッチもうすぐ気がつくと思うんだ。そしたら、三人で食事させてもらおう。ここで」
「分かりました。行ってきます」
笑顔で金貨を握って、デュランは部屋を出ていった。
グレンはクレッチの顔を見た。
<追跡者>は確かにクレッチの記憶をのぞいたと言った。さらに、それが興味深いものだったと。<追跡者>はクレッチからどのような情報を得たのであろうか。城の内部の様子を知り、襲撃をかけようとしているのか。それとも何かグレンについて戦いが有利になるような情報をつかんだのか。心当たりはないが、何が受け手の琴線に触れるか分からない。
クレッチの手を握ってみる。とても冷たい。そして、魔力がほとんど感じられない。いつもなら、ここで迷わず自分の魔力を分けるのだが、今日はそれができない。まだ自身が完全に回復していない上に、上級ヴァンパイアに会って気が動転してしまっている。すぐに仕掛けてくることはないと分かっていても、戦える状態になっていないと不安になる。
なんでこんなにびくびくしているんだろう。
グレンは頭を抱える。
もやもやした気持ちのままデュランの帰りを待つ。
デュランは詰め所に行って手短に報告を済ませると、自室に戻った。ドアの鍵を閉めると、木の床に手をかざした。魔力を注ぐと、光とともに魔法陣が現れる。デュランは静かに魔法陣に乗った。光の帯が伸びてその姿は消えた。
「どうした、デュラン?」
エストルはペンを走らせていた手を休め、まだ姿の見えていない相手に尋ねた。すると、背後にデュランが姿を現した。
「エストル様、報告したいことがございまして」
「何かあったのか?」
「先ほど城内の森で上級ヴァンパイアと遭遇いたしました」
「何?」
森とはいえ、城の敷地内に侵入してくるとは。エストルはあまりにも大胆な手口に唖然とした。
「報告を聞こう」
次回更新予定日:2016/06/04
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「先に詰め所に詳しい報告をしてきます。クレッチについていていただいてもいいですか?」
「うん。そうする」
二人はクレッチをベッドに降ろした。
「ねえ、帰りにこれで何か軽く食べられるもの買ってきてよ」
デュランに金貨を握らせる。
「クレッチもうすぐ気がつくと思うんだ。そしたら、三人で食事させてもらおう。ここで」
「分かりました。行ってきます」
笑顔で金貨を握って、デュランは部屋を出ていった。
グレンはクレッチの顔を見た。
<追跡者>は確かにクレッチの記憶をのぞいたと言った。さらに、それが興味深いものだったと。<追跡者>はクレッチからどのような情報を得たのであろうか。城の内部の様子を知り、襲撃をかけようとしているのか。それとも何かグレンについて戦いが有利になるような情報をつかんだのか。心当たりはないが、何が受け手の琴線に触れるか分からない。
クレッチの手を握ってみる。とても冷たい。そして、魔力がほとんど感じられない。いつもなら、ここで迷わず自分の魔力を分けるのだが、今日はそれができない。まだ自身が完全に回復していない上に、上級ヴァンパイアに会って気が動転してしまっている。すぐに仕掛けてくることはないと分かっていても、戦える状態になっていないと不安になる。
なんでこんなにびくびくしているんだろう。
グレンは頭を抱える。
もやもやした気持ちのままデュランの帰りを待つ。
デュランは詰め所に行って手短に報告を済ませると、自室に戻った。ドアの鍵を閉めると、木の床に手をかざした。魔力を注ぐと、光とともに魔法陣が現れる。デュランは静かに魔法陣に乗った。光の帯が伸びてその姿は消えた。
「どうした、デュラン?」
エストルはペンを走らせていた手を休め、まだ姿の見えていない相手に尋ねた。すると、背後にデュランが姿を現した。
「エストル様、報告したいことがございまして」
「何かあったのか?」
「先ほど城内の森で上級ヴァンパイアと遭遇いたしました」
「何?」
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次回更新予定日:2016/06/04
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「何でしょう? 変な威圧感が」
デュランは辺りを見回した。グレンは見回すよりも気配を感じ取ることに集中した。焦りが見え始める。
「まさか。そんな」
どさっと何かが大きな音を立てて落ちる。慌てて足下を見ると、そこには倒れたクレッチがいた。
「クレッチ? おい、しっかりしろ、クレッチ」
デュランが揺り動かすが、答えがない。意識を失っているようだ。
「<追跡者>、ここで何をしているの?」
気配の正体を正確に把握したグレンは、確信を持って問うた。すると、闇の中から金色の瞳の上級ヴァンパイアの姿が現れた。
「さすがグレン。私の気配を覚えていたか」
「忘れるはずがない」
グレンはヴァンパイアを睨みつけた。
「まあそう怒るな。少し遊びに来ただけだ。例えば」
<追跡者>はにやりと笑った。
「このクレッチとかいう男の記憶を覗いてみたりな」
「何だと?」
デュランの顔から血の気が引いた。
「なかなか興味深かった。今日はもうこれで帰る」
「待て」
グレンは手を伸ばしたが、<追跡者>はすぐに消えた。
分からない。クレッチが何かヴァンパイアに有利な情報を握っていたというのか。
それよりも先にクレッチの状態を確認しなければならなかった。グレンはクレッチの横に屈み、手を握ってみた。
「意識を失っているだけみたいだね。あとは魔力がほとんど残っていない」
おそらくグレンが以前そうしたようにヴァンパイアに抵抗して、記憶が読まれないようにしたのだろう。
「部屋に運んで休んでもらおう。直に意識が回復するはずだから」
「はい」
気丈そうに答えるが、デュランの顔色はまだ戻っていないような気がした。
「行きましょう」
逆に声をかけられて、グレンははっとしてクレッチの左肩を持つ。
二人はクレッチを部屋に運んだ。
次回更新予定日:2016/05/28
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デュランは辺りを見回した。グレンは見回すよりも気配を感じ取ることに集中した。焦りが見え始める。
「まさか。そんな」
どさっと何かが大きな音を立てて落ちる。慌てて足下を見ると、そこには倒れたクレッチがいた。
「クレッチ? おい、しっかりしろ、クレッチ」
デュランが揺り動かすが、答えがない。意識を失っているようだ。
「<追跡者>、ここで何をしているの?」
気配の正体を正確に把握したグレンは、確信を持って問うた。すると、闇の中から金色の瞳の上級ヴァンパイアの姿が現れた。
「さすがグレン。私の気配を覚えていたか」
「忘れるはずがない」
グレンはヴァンパイアを睨みつけた。
「まあそう怒るな。少し遊びに来ただけだ。例えば」
<追跡者>はにやりと笑った。
「このクレッチとかいう男の記憶を覗いてみたりな」
「何だと?」
デュランの顔から血の気が引いた。
「なかなか興味深かった。今日はもうこれで帰る」
「待て」
グレンは手を伸ばしたが、<追跡者>はすぐに消えた。
分からない。クレッチが何かヴァンパイアに有利な情報を握っていたというのか。
それよりも先にクレッチの状態を確認しなければならなかった。グレンはクレッチの横に屈み、手を握ってみた。
「意識を失っているだけみたいだね。あとは魔力がほとんど残っていない」
おそらくグレンが以前そうしたようにヴァンパイアに抵抗して、記憶が読まれないようにしたのだろう。
「部屋に運んで休んでもらおう。直に意識が回復するはずだから」
「はい」
気丈そうに答えるが、デュランの顔色はまだ戻っていないような気がした。
「行きましょう」
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二人はクレッチを部屋に運んだ。
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