魔珠 忍者ブログ
オリジナルファンタジー小説『魔珠』を連載しています。 前作『ヴィリジアン』も公開しています。
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「そのようだな。誤算だった」
「ソード」
 グレンは剣を突きつけたまま強い口調でソードに迫った。
「僕と一緒に戦って。ヴァンパイアから、この世界を救うために」
 ソードは押し黙った。だが、次の瞬間笑いが込み上げてきて耐えられなくなり、大声で狂ったように笑い出した。およそソードらしからぬ行動だった。グレンは少しひるんだように一歩のけぞった。
「私はお前の敵だ。信頼を裏切られたことをせいぜい苦しむが良い」
 ぐさりと心をえぐられて動けなくなった。そこへ強い突風が吹いてきて、黒い影が落ちた。とっさに身を守るように手をかざす。突風と影が去り、見上げると、そこにはワイバーン型の魔獣がいた。おそらくモーレで目撃されていたものだ。その背にはソードが乗っていた。
「ソード!」
 グレンは叫んだ。涙が、にじんできた。
「ソード……どうして」
 地面にくずおれて泣き出すと、また痛みが戻ってきた。ヴィリジアンの代わりに受けた痛み。
「グレン将軍」
 シャロンが肩に手を載せる。グレンは涙をふいて振り返った。シャロンはもう片方の手を地面について自分の体を支えていた。先ほどまでうつ伏せになっていて分からなかったが、後ろ側だけでなく、前にも前進びっしりと傷がある。グレンは残っている魔力で応急処置程度ではあったが、治癒をした。
「ありがとう」
 シャロンが笑った。まだ痛みはあるが、体も心も緊張がほぐれて軽くなった感じがする。
「一度リネルに戻ろう」
 グレンが言うと、シャロンは首を横に振った。
「グレン将軍は城に戻って」
「でも」
「嫌な予感がするの」
 こういう事態になったということは。考えられることはただ一つ。誰かがヴィリジアンやシャロンのことをヴァンパイアに明かしたのだ。それができるのはおそらく。
「私は一人で帰る。帰って伯父様に報告する。だから、早く」
「分かった」
 グレンは素速く全身に応急処置を施し、ヴィリジアンを握りしめた。
「シャロン、ヴィリジアンは?」
「将軍が持っていて。きっと力を貸してくれる」
「じゃあ、代わりに僕の剣を」
「分かった。ありがたく使わせてもらうね。次、会ったときに返す」
 グレンはうなずいて駆け出した。よどんだ空気を肌で感じながら。

次回更新予定日:2016/11/12

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グレンは「敵」という言葉にはっとなる。ソードの、敵。
「そんなの、嫌だ」
 ずっと見守ってくれていたのに。ずっと信頼していたのに。
「選べ。共に城に戻るというのなら、喜んで受け入れる。だが、ヴィリジアンを力尽くで奪うと言うのなら」
 ソードはヴィリジアンを目の前に掲げた。瞳が妖しく輝く。
「覚えているか? ヴィリジアンは破壊してもよいと言われている」
「駄目。やめて!」
 ソードは宙に舞い、ヴィリジアンに魔力を込め始めた。唯一の希望が砕け散ってしまう。グレンは慌ててソードを追おうとしたが、体がぴたりと静止した。何かの力がグレンの動きを邪魔している。
「グレン将軍!」
 背後でシャロンが叫んだ。そのとき、ヴィリジアンの青緑色の石が強い光を放った。グレンの瞳がそれに反応するように輝く。すると、グレンは強い魔力を持った青緑色の光に包まれた。突然、激痛が全身に襲いかかる。
「なんだ、これは」
 ソードは驚いて剣に注ぎ込む魔力を強める。それに呼応するかのようにグレンの叫び声が大きくなる。
「ヴィリジアンが自分の身を守るために、グレンの体を盾にしているのか?」
 どう考えてもそうとしか思えない。ヴィリジアンに注ぎ込んだ魔力がどんどんグレンに流れ込んでいっている。そうでなければ、もうとっくにヴィリジアンは粉々に砕け散っているはず。そして、グレンはヴィリジアンの身代わりになってソードの破の魔力を全身で受けながらも耐えている。
「破壊は叶わぬか」
 ソードは魔力を注ぐのをやめた。魔力から解放されたグレンはばったりと倒れた。
「ならば、陛下にお届けするのみ」
 ソードはくるりと背を向けて歩き出した。しかし、グレンはその後ろ姿に手を伸ばした。
「待て……ソード」
 グレンの瞳が緑色に光る。ヴィリジアンの石が同調してきらめき、剣が柔らかい光で包み込まれる。一瞬でその光は膨張し、ソードの前で爆発した。ソードの体は吹き飛ばされた。グレンは大地を蹴りながら起き上がって、ソードの手から離れたヴィリジアンに飛びつく。体中に痛みが走ったが、痛覚を封じながらグレンは倒れているソードに歩み寄った。ソードの鼻先にヴィリジアンを突きつける。
「そうか。ヴィリジアンは使い手と一心同体になれるようだな」
 ソードが嘲笑するように言うと、グレンは険しい顔のまま答えた。
「ヴィリジアンが受けた魔力を僕に伝えることができるのなら、僕の魔力をヴィリジアンに伝えることもできるはず」

次回更新予定日:2016/11/05

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「待って」
 すると、男はぴたりと歩みを止めて振り返った。
「グレンか」
 ソードだった。左手にいつもとは違う剣が握られていた。
「ヴィリジアンが、見つかった」
 グレンは驚きで言葉を失った。もう一度ソードの握っている剣を見た。青緑色の宝石が輝いている。
「この町のヴァンパイアは私が一掃しておいた。すぐに城に戻って陛下にヴィリジアンを……」
 すると、倒れていたシャロンがグレンの足首をつかんだ。
「ヴィリジアンを、ソードに渡しては……」
 グレンは振り向いた。屈んでシャロンの手を優しく握り、そっと地に下ろした。そして、ゆっくりと立ち上がると、震える声で聞いた。
「ソード、君はアウグスティンに行っていたはず。どうしてここにいるの?」
 すると、ソードは余裕のある口調で淡々と答えた。
「ヴィリジアンがここにあると聞いた。だから、探しに来た」
 ソードは表情一つ変えずにそのまま続けた。
「ヴィリジアンの捜索とその確保は陛下からのご命令。さあ、城に戻ろう」
「待って」
 ソードが差し伸べた手をグレンは取らなかった。
「その剣を、シャロンに返して」
「陛下の命に背く気か?」
「ヴィリジアンはヴァンパイア化した人間を元に戻す力を持った剣。だけど、剣にはまった石と同じヴィリジアンの色の瞳を持った人にしか使えない。シャロンでないと使えないんだ」
 すると、ソードが不敵な笑みをこぼした。
「分かっている。そんなことは」
「ソード?」
 グレンはぞっとして聞き返す。なぜソードがここにいるのか。なぜここにヴィリジアンがあることを知っているのか。そして、なぜヴィリジアンの力を知っているのか。どうしても認めたくなくて否定してきたことをここで突きつけられ、認めざるを得なくなる。
「ソード、なんで知っているの……何もかも」
「陛下の忠実なる下僕だからだ」
 動じることなくソードは答える。そして、グレンに問う。
「お前は陛下の騎士か、それとも、我々の敵か?」

次回更新予定日:2016/10/29

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「分かった」
 ルイも同じように体を支えるように立ち上がり、少しちぐはぐな姿勢で大広間の方に向かった。
 クレッチとデュランは大きくうなずき合って兵舎に向かった。
「考えることは同じだな」
 クレッチの部屋に着くと、いたずらっぽくデュランが笑う。
「外のヴァンパイアは陽動だったんだと思う。狙いは最初からエストル様だったんだ」
 クレッチが言いながら、部屋の床に魔法陣を浮かび上がらせた。エストルの私室に直接アクセスするための魔法陣だ。その中に足を踏み入れた途端、吹き飛ばされた。
「駄目か」
「俺の部屋からはどうだろう」
 こちらが失敗した以上、成功するとは思えなかったが、やれることはやってみるしかなかった。
 デュランの部屋でも魔法陣を展開し、その中に入ろうとしたが、やはり同じように弾き飛ばされた。
「万事休すだな」
「魔力を少しずつ送ることによって綻びが生じるかもしれない。城に戻ってみんなで結界に攻撃を加えてみよう」
 二人は城に戻って周りにいた兵士たちに指示を出した。

 そろそろスアに到着するはずだ。グレンは一歩一歩踏み出しながら考えた。
 シャロンが来てくれていたらいいのに。
 ヴァンパイア討伐などしたくない。人間だったはずのヴァンパイアを殺したくない。シャロンが一足先に来て町が元に戻っていてくれたらいいのに、グレンはそう願わずにはいられなかった。だが、空の色は重たい。空気がよどんでいる。
 町が見えてきた。活気というものが感じられない。何かが動いている気配がない。人はおろか、ヴァンパイアの気配さえない。
「変な、感じ」
 グレンは嫌な予感がして駆け出した。
 町の入口まで来ると、そこから大きな通りが真っ直ぐに延びていた。この町のメインストリートといったところか。少し先に二つの人影を確認した。一つは通りの真ん中にある。少しずつ離れていっているような気がする。向こう側に向かって歩いていっているのだろう。そして、もう一つは通りの真ん中に倒れているようだった。動かない。グレンは速度を落とさずにそちら目がけて走っていった。
「シャロン?」
 倒れているのがシャロンだと分かって、グレンは走り寄った。だが、すぐ先の後ろ姿にはっとする。見覚えのある後ろ姿。

次回更新予定日:2016/10/22

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「ルイ様、強力な結界が張られていて、二階に行けません!」
「何だって?」
 クレッチとデュランも驚いた表情で兵士たちを見る。いったい何が起きているというのか。
「結界を解除しようと試みましたが、我々の魔力ではびくともしません」
「分かった。行こう」
 ルイが立ち上がると、デュランが言った。
「俺たちも行こう。俺たち三人なら何とかできるかもしれない」
 王騎士直属の部下三人。今動ける最大の戦力だ。
「ありがとう。リン、ソフィア将軍を頼む」
「うん、分かった」
 リンが小さい声で答えた。
 三人は中央階段の方に向かった。
「なるほど。確かに結界があるな」
 ルイが結界の壁に手を触れ、感触を確かめる。大きな魔力を感じる。
「では、同時に行くぞ」
 クレッチが号令をかけると、三人はありったけの魔力を込めた光を放った。
「何?」
 合わさって大きくなった光が結界に激しくぶつかり、大爆発を起こした。三人は扉まで吹き飛ばされた。
「なんて……魔力だ」
 デュランがふらふらと起き上がりながら言う。
「どこか綻びがあるところとか魔力の層が薄くなっている箇所とかはないのか?」
「はい。手分けして調べましたが、結界の魔力はどこも均質です」
 近くにいた兵士が残念そうに答える。
「これはソフィア将軍の目が覚めるまで待つしかなさそうだな。二階にいるのは陛下とエストル様と警護の兵士か?」
 クレッチが問いかけると、兵士が口を開いた。
「それが……警護の兵士は、全員結界が現れたときに二階から吹き飛ばされたようなのです」
「なんだ、それは」
 結界の魔力がそれほど強いということなのか。
「ルイ」
 クレッチはまだ先ほどの衝撃でひりひりする体を無理やり起こして立ち上がり言った。
「ソフィア将軍が目覚めたらすぐに報告できるように側についていてくれ。俺たちは何か結界を破る方法がないか調べてみる」

次回更新予定日:2016/10/15

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