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「もう何ともないのか?」
「うん。過ぎてしまえば何ともなくなるんだ。体力を消耗するから疲れは残るけど」
「そうか」
エストルはグレンの手を引いてベッドの前まで連れてくると、そのまま横たわらせた。
「あまり無理はしないでくれ」
そう言うと、エストルは先ほど書類を片づけたのと同じようにてきぱきとグレンが使ったタオルを洗って絞り、床についた血をふきだした。何をやっても無駄な動きがなくて、眺めていると小気味がいい。
「どうかしたのか?」
グレンの視線にエストルが気づく。
「ううん。手際がいいなと思って」
グレンにほめられると何でもうれしい。誰にほめられるよりもうれしい。喜びが込み上げてきてエストルは少し照れたように笑った。
ドアを開けて廊下に落ちた血も素速くふき取ってきれいにタオルを折りたたむ。床に置いたままだった乱れた書類をかがんでそろえると、右腕に抱えた。静かにドアを閉めてエストルは下に置きっ放しだったタオルを左手で拾い上げて持ち帰った。
グレンはドアを開けると、二人の客を先に通した。
「どうぞ」
「なるほど。グレンらしい部屋だ」
いちばん最初に入ったウィンターが部屋をぐるりと見回して第一印象を述べた。さっぱりとしてシンプルであまり物がない。よく部屋を空けているから当然といえば当然なのかもしれないが、エストルの本だらけの部屋とは雰囲気が全然違う。
「座らせてもらうぞ」
エストルが勝手にダイニングテーブルの椅子を引き出して座る。ウィンターも隣の席に腰かけた。
「お茶でいい?」
「ああ」
二人の客ににっこり微笑んで、グレンは湯を沸かし始めた。
「こうやって二人で話をするのは、仲間に誘って以来だな」
「そうだな。あまり会うわけにもいかなかったからな」
二人の話を聞いていてグレンは意外そうな顔をした。だが、確かにクレッチやデュランがいたことを考えると、エストルとウィンターがわざわざ危険を冒して接触する必要もなかったのだから、それはむしろ自然なことなのかもしれない。
「信頼する仲間であるにもかかわらず、あなたがどういう人物なのかをよく知らない。クレサックやグレンから話に聞くだけだ」
「私はグレンからも話を聞けなかったからあなた以上に分からないな。ただ、信頼できそうな人物ではあると思った。一度会っただけで。それと」
エストルはいたずらっぽい笑みを浮かべた。
次回更新予定日:2017/06/24
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「うん。過ぎてしまえば何ともなくなるんだ。体力を消耗するから疲れは残るけど」
「そうか」
エストルはグレンの手を引いてベッドの前まで連れてくると、そのまま横たわらせた。
「あまり無理はしないでくれ」
そう言うと、エストルは先ほど書類を片づけたのと同じようにてきぱきとグレンが使ったタオルを洗って絞り、床についた血をふきだした。何をやっても無駄な動きがなくて、眺めていると小気味がいい。
「どうかしたのか?」
グレンの視線にエストルが気づく。
「ううん。手際がいいなと思って」
グレンにほめられると何でもうれしい。誰にほめられるよりもうれしい。喜びが込み上げてきてエストルは少し照れたように笑った。
ドアを開けて廊下に落ちた血も素速くふき取ってきれいにタオルを折りたたむ。床に置いたままだった乱れた書類をかがんでそろえると、右腕に抱えた。静かにドアを閉めてエストルは下に置きっ放しだったタオルを左手で拾い上げて持ち帰った。
グレンはドアを開けると、二人の客を先に通した。
「どうぞ」
「なるほど。グレンらしい部屋だ」
いちばん最初に入ったウィンターが部屋をぐるりと見回して第一印象を述べた。さっぱりとしてシンプルであまり物がない。よく部屋を空けているから当然といえば当然なのかもしれないが、エストルの本だらけの部屋とは雰囲気が全然違う。
「座らせてもらうぞ」
エストルが勝手にダイニングテーブルの椅子を引き出して座る。ウィンターも隣の席に腰かけた。
「お茶でいい?」
「ああ」
二人の客ににっこり微笑んで、グレンは湯を沸かし始めた。
「こうやって二人で話をするのは、仲間に誘って以来だな」
「そうだな。あまり会うわけにもいかなかったからな」
二人の話を聞いていてグレンは意外そうな顔をした。だが、確かにクレッチやデュランがいたことを考えると、エストルとウィンターがわざわざ危険を冒して接触する必要もなかったのだから、それはむしろ自然なことなのかもしれない。
「信頼する仲間であるにもかかわらず、あなたがどういう人物なのかをよく知らない。クレサックやグレンから話に聞くだけだ」
「私はグレンからも話を聞けなかったからあなた以上に分からないな。ただ、信頼できそうな人物ではあると思った。一度会っただけで。それと」
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