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エストルが背中に手を添え、グレンの体を起こそうとした。そのとき。
「いや」
急にあの発作に見舞われたのだ。
「どうした?」
異常に気づいてエストルが尋ねる。だが、そのときにはもう、グレンの牙はエストルに刺さっていた。
「グレ……ン?」
無我夢中で血をすすった。体も心も満たされてゆく。
どさっと腕に重みを感じてグレンははっとする。腕の中でエストルが倒れている。意識はない。
「嘘……エストル……なんで?」
自分のしたことに気づいてグレンは凍りついた。
「そんな」
なぜ止められなかったのだろう。これまでは発作が起きても強靱な理性で抑えられた。ソードに吸血させてもらえるまで我慢することができた。それなのに、なぜ。
「エストル様!」
背後でドアがばたんと開く。
「ソフィア?」
すると、素速い動きで腕の中から意識を失っていたはずのエストルが起き上がり、ソフィアに襲いかかる。
「何?」
ソフィアはとっさに剣を鞘から抜こうとしたが、あまりにも不意なことで間に合わなかった。
「嘘……」
エストルがソフィアの首筋に食らいついていた。
「どうした?」
異様な気配と物音に気づいたのか、ソードが駆けつけてくる。ソードは瞬時に状況を理解したようで、剣を抜いてエストルに斬りつけた。
「やめて!」
エストルとソフィアが同時に倒れる。ソフィアは意識がない。エストルは意識はあるようだが、動けない。
ソードはしゃがんでソフィアの脈を調べた。グレンは青ざめた顔でソードの顔色をうかがう。しかし、ソードは首を横に振った。
「そんな……」
ショックで動けなくなっているグレンの横を通って、ソードはゆっくりとエストルに近づく。エストルの背中から血が流れている。
次回更新予定日:2016/02/13
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「いや」
急にあの発作に見舞われたのだ。
「どうした?」
異常に気づいてエストルが尋ねる。だが、そのときにはもう、グレンの牙はエストルに刺さっていた。
「グレ……ン?」
無我夢中で血をすすった。体も心も満たされてゆく。
どさっと腕に重みを感じてグレンははっとする。腕の中でエストルが倒れている。意識はない。
「嘘……エストル……なんで?」
自分のしたことに気づいてグレンは凍りついた。
「そんな」
なぜ止められなかったのだろう。これまでは発作が起きても強靱な理性で抑えられた。ソードに吸血させてもらえるまで我慢することができた。それなのに、なぜ。
「エストル様!」
背後でドアがばたんと開く。
「ソフィア?」
すると、素速い動きで腕の中から意識を失っていたはずのエストルが起き上がり、ソフィアに襲いかかる。
「何?」
ソフィアはとっさに剣を鞘から抜こうとしたが、あまりにも不意なことで間に合わなかった。
「嘘……」
エストルがソフィアの首筋に食らいついていた。
「どうした?」
異様な気配と物音に気づいたのか、ソードが駆けつけてくる。ソードは瞬時に状況を理解したようで、剣を抜いてエストルに斬りつけた。
「やめて!」
エストルとソフィアが同時に倒れる。ソフィアは意識がない。エストルは意識はあるようだが、動けない。
ソードはしゃがんでソフィアの脈を調べた。グレンは青ざめた顔でソードの顔色をうかがう。しかし、ソードは首を横に振った。
「そんな……」
ショックで動けなくなっているグレンの横を通って、ソードはゆっくりとエストルに近づく。エストルの背中から血が流れている。
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グレンは吹き飛ばされて地に叩きつけられた。すぐに次の閃光がグレンを襲う。
できる。今の力ならできる。
グレンは剣で光をはねのけた。その次の赤い光も剣を横にして受け止めた。
「ほう。ヴァンパイアとなって力を手に入れたか。少しは強くなったようだな」
だが、赤い光は押してくる力が強く、少しずつ大きくなっている。グレンは両手で剣を持って光を跳ね返そうとしたが、光が強い力でグレンに向かってくる。踏ん張っている足が地面を削りながら後退している。
「ああっ!」
体が耐えきれなくなって吹き飛ばされる。グレンは岩に全身を打ちつけられた。
やはり、強い。
「どうした? 力を手に入れたのではなかったのか?」
圧倒的な魔力が周囲に溢れ出した。体がついていけない。急に恐怖で動けなくなった。
無抵抗なグレンの体を宙に吊り上げ、自分の元に引き寄せる。
「どうして、ここに?」
精一杯力を振り絞って声を発する。それでも、消え入りそうな声だ。グレンは完全に見えない圧力に呑まれていた。
「魔獣狩りが好きと聞いてな。わざわざおびき寄せたのだ」
「何が、目的だ?」
「まあいくつかある」
ヴァンパイアは楽しそうに言った。
「一つはお前の魔力をもらうため。お前はいい魔力を持っている。一度取り込むと癖になる。強く、質の良い魔力だ。二つ目は面白い戯れを思いついてそれを試したくなったから。そして、最後に、気になることがあったからだ」
「よく、分からない」
少し朦朧としてきた意識でグレンは返した。
「すぐに分からせてやろう」
ヴァンパイアはグレンの肩をつかんだ。
「あ……」
首筋に牙が食い込む。力が一気に抜け、意識が遠のく。ヴァンパイアの力が働いていなかったら、落ちて地面に叩きつけられていたに違いない。
「グレン。大丈夫か、グレン」
目を開けると、そこには心配そうにグレンの顔を覗き込むエストルがいた。
「ここ、は? あれ、どうして……」
グレンは辺りを見回した。間違いない。エストルの執務室だ。
「良かった。心配したぞ。起き上がれるか?」
次回更新予定日:2016/02/06
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できる。今の力ならできる。
グレンは剣で光をはねのけた。その次の赤い光も剣を横にして受け止めた。
「ほう。ヴァンパイアとなって力を手に入れたか。少しは強くなったようだな」
だが、赤い光は押してくる力が強く、少しずつ大きくなっている。グレンは両手で剣を持って光を跳ね返そうとしたが、光が強い力でグレンに向かってくる。踏ん張っている足が地面を削りながら後退している。
「ああっ!」
体が耐えきれなくなって吹き飛ばされる。グレンは岩に全身を打ちつけられた。
やはり、強い。
「どうした? 力を手に入れたのではなかったのか?」
圧倒的な魔力が周囲に溢れ出した。体がついていけない。急に恐怖で動けなくなった。
無抵抗なグレンの体を宙に吊り上げ、自分の元に引き寄せる。
「どうして、ここに?」
精一杯力を振り絞って声を発する。それでも、消え入りそうな声だ。グレンは完全に見えない圧力に呑まれていた。
「魔獣狩りが好きと聞いてな。わざわざおびき寄せたのだ」
「何が、目的だ?」
「まあいくつかある」
ヴァンパイアは楽しそうに言った。
「一つはお前の魔力をもらうため。お前はいい魔力を持っている。一度取り込むと癖になる。強く、質の良い魔力だ。二つ目は面白い戯れを思いついてそれを試したくなったから。そして、最後に、気になることがあったからだ」
「よく、分からない」
少し朦朧としてきた意識でグレンは返した。
「すぐに分からせてやろう」
ヴァンパイアはグレンの肩をつかんだ。
「あ……」
首筋に牙が食い込む。力が一気に抜け、意識が遠のく。ヴァンパイアの力が働いていなかったら、落ちて地面に叩きつけられていたに違いない。
「グレン。大丈夫か、グレン」
目を開けると、そこには心配そうにグレンの顔を覗き込むエストルがいた。
「ここ、は? あれ、どうして……」
グレンは辺りを見回した。間違いない。エストルの執務室だ。
「良かった。心配したぞ。起き上がれるか?」
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モーレには岩山がある。その麓には村があり、人が暮らしている。何もない山で、途中から険しい道もあるので、村人が山に登ることは滅多にない。代わりに冒険者が時折腕試しや修行に訪れることがある。
山頂付近で大きな鳥のようなものが確認されている。冒険者たちが探索に行ったところ、魔獣らしいということが分かり、腕に自信のある者が何人か挑んだ。だが、いずれも力及ばず、命からがら帰ってくるのがやっとだった。
「これでは、山頂に行くこともできないし、麓に降りてこないともかぎらないし」
酒場兼宿屋のおかみさんが言う。
宿屋には他に泊まっている人はいないらしい。魔獣の噂が広まってから、危険すぎるということで冒険者も来ていないらしい。グレンは酒場で飲んでいた地元の人たちとも話をしたが、誰も山に近づく者はおらず、大した情報は集まらなかった。
翌朝、日が昇って間もなくすると、グレンは出発した。一時間ほど歩くと、うっすらと霧がかかりだした。空気は澄んできたが、変な寒気がする。高度が上がるにつれ、気温は下がってはいるのだろうが、それとは違う。何とも不穏な雰囲気が醸し出されているのだ。いつもの魔獣とは異なる感じ。中腹を越えるとその感じがはっきりとしてきた。
この感じ。知っている。
グレンは少し平らな面積の広い岩棚に辿り着いた。山頂に向かう多くの登山者はここを休憩場所としていると聞いた。また、冒険者の中にはここで鍛錬を行う者もいるという。
グレンも一息つくことにした。
立ち止まって景色を見る。少し霧がかかっているため、遠くまでは見渡せないが、青く山々の影が見える。まさしく絶景だ。
大きく息を吸い込んでみようとしたその瞬間、辺りの空気が凍りつく。
「久しぶりだな」
振り向くと、そこには金色の瞳のヴァンパイアが宙に浮いたままグレンに笑いかけている。
「あなたは!」
「そう覚えているかな。お前を吸血したはずなのだが……無事だったとはな」
忘れもしない。あの日会った上級ヴァンパイアだ。今なら。強い力を手に入れた今なら、勝機はあるだろうか。少なくとも少しは戦えるはずだ。
「はっ」
大地を蹴って、剣でヴァンパイアに襲いかかる。
「ふん。愚かな」
ヴァンパイアは素速い動きで手のひらから閃光を繰り出し、グレンにぶつける。
「うあっ」
次回更新予定日:2016/01/30
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山頂付近で大きな鳥のようなものが確認されている。冒険者たちが探索に行ったところ、魔獣らしいということが分かり、腕に自信のある者が何人か挑んだ。だが、いずれも力及ばず、命からがら帰ってくるのがやっとだった。
「これでは、山頂に行くこともできないし、麓に降りてこないともかぎらないし」
酒場兼宿屋のおかみさんが言う。
宿屋には他に泊まっている人はいないらしい。魔獣の噂が広まってから、危険すぎるということで冒険者も来ていないらしい。グレンは酒場で飲んでいた地元の人たちとも話をしたが、誰も山に近づく者はおらず、大した情報は集まらなかった。
翌朝、日が昇って間もなくすると、グレンは出発した。一時間ほど歩くと、うっすらと霧がかかりだした。空気は澄んできたが、変な寒気がする。高度が上がるにつれ、気温は下がってはいるのだろうが、それとは違う。何とも不穏な雰囲気が醸し出されているのだ。いつもの魔獣とは異なる感じ。中腹を越えるとその感じがはっきりとしてきた。
この感じ。知っている。
グレンは少し平らな面積の広い岩棚に辿り着いた。山頂に向かう多くの登山者はここを休憩場所としていると聞いた。また、冒険者の中にはここで鍛錬を行う者もいるという。
グレンも一息つくことにした。
立ち止まって景色を見る。少し霧がかかっているため、遠くまでは見渡せないが、青く山々の影が見える。まさしく絶景だ。
大きく息を吸い込んでみようとしたその瞬間、辺りの空気が凍りつく。
「久しぶりだな」
振り向くと、そこには金色の瞳のヴァンパイアが宙に浮いたままグレンに笑いかけている。
「あなたは!」
「そう覚えているかな。お前を吸血したはずなのだが……無事だったとはな」
忘れもしない。あの日会った上級ヴァンパイアだ。今なら。強い力を手に入れた今なら、勝機はあるだろうか。少なくとも少しは戦えるはずだ。
「はっ」
大地を蹴って、剣でヴァンパイアに襲いかかる。
「ふん。愚かな」
ヴァンパイアは素速い動きで手のひらから閃光を繰り出し、グレンにぶつける。
「うあっ」
次回更新予定日:2016/01/30
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「またか」
ムーンホルン国王セレストは苦々しい顔をして言った。
またヴァンパイア討伐に王騎士を派遣した町がヴァンパイア化されていなかったという報告を受けたためだ。
「これで何度目だ?」
「五件目です」
宰相エストルが即答した。
「まあよい。引き続きソフィアはノームに、ソードはレティアにヴァンパイア討伐。グレンはモーレに魔獣討伐。今日はゆっくり休め」
「はっ」
三人は一礼して退室した。
「変ね。急に誤った情報が氾濫し出すなんて」
ソフィアが口を開く。
「できるだけ全土をくまなく歩いてどのような状況になっているのか全体像をつかみたいところだ」
珍しくソードが自分の考えを述べた。
「ソード」
後ろからエストルが声をかける。二人はエストルの執務室の方に歩いていった。早い足取りだ。これから順番にエストルから任務の詳細を聞く。ソードが最初で、ソフィア、グレンの順だ。
「順番来るまで少し休もうかな」
隣でソフィアが伸びをする。
「お疲れ?」
「今回結構遠かったから」
いつものように朗らかに会話を交わしていたが、別れ際になるとソフィアは険しい顔をした。
「最近、強い魔獣が多くなっているような気がするの。気をつけて」
「うん。ありがとう」
グレンはソフィアと別れて部屋に戻ると、急にまたあの発作に襲われた。
血が、欲しい。
ふとヴィリジアンのことが頭をよぎる。
もしあの剣で自分を斬ったら、元の吸血する必要のない人間に戻れるのだろうか。
でも、そうすると、このヴァンパイアになって得られた桁違いの力も消滅してしまうのだろうか。
今は駄目だ。この力がなければ上級ヴァンパイアを倒すことはできない。このヴァンパイアの力は上級ヴァンパイアを倒すために必要だ。
後でソードに会いに行こう。またソードの血を、吸わせてもらおう。
次回更新予定日:2016/01/23
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ムーンホルン国王セレストは苦々しい顔をして言った。
またヴァンパイア討伐に王騎士を派遣した町がヴァンパイア化されていなかったという報告を受けたためだ。
「これで何度目だ?」
「五件目です」
宰相エストルが即答した。
「まあよい。引き続きソフィアはノームに、ソードはレティアにヴァンパイア討伐。グレンはモーレに魔獣討伐。今日はゆっくり休め」
「はっ」
三人は一礼して退室した。
「変ね。急に誤った情報が氾濫し出すなんて」
ソフィアが口を開く。
「できるだけ全土をくまなく歩いてどのような状況になっているのか全体像をつかみたいところだ」
珍しくソードが自分の考えを述べた。
「ソード」
後ろからエストルが声をかける。二人はエストルの執務室の方に歩いていった。早い足取りだ。これから順番にエストルから任務の詳細を聞く。ソードが最初で、ソフィア、グレンの順だ。
「順番来るまで少し休もうかな」
隣でソフィアが伸びをする。
「お疲れ?」
「今回結構遠かったから」
いつものように朗らかに会話を交わしていたが、別れ際になるとソフィアは険しい顔をした。
「最近、強い魔獣が多くなっているような気がするの。気をつけて」
「うん。ありがとう」
グレンはソフィアと別れて部屋に戻ると、急にまたあの発作に襲われた。
血が、欲しい。
ふとヴィリジアンのことが頭をよぎる。
もしあの剣で自分を斬ったら、元の吸血する必要のない人間に戻れるのだろうか。
でも、そうすると、このヴァンパイアになって得られた桁違いの力も消滅してしまうのだろうか。
今は駄目だ。この力がなければ上級ヴァンパイアを倒すことはできない。このヴァンパイアの力は上級ヴァンパイアを倒すために必要だ。
後でソードに会いに行こう。またソードの血を、吸わせてもらおう。
次回更新予定日:2016/01/23
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グレン ムーンホルン王騎士
ソード ムーンホルン王騎士
ソフィア ムーンホルン王騎士
セレスト ムーンホルン国王
エストル ムーンホルン宰相
ウィンター 上級ヴァンパイアを追うテルウィング出身の冒険者
クレサック 元ムーンホルン王騎士。ウィンターの協力者
シャロン ヴィリジアンの使い手。クレサックの姪
クレッチ 上級兵士。グレンの部下
デュラン 上級兵士。グレンの部下
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HN:
千月志保
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