魔珠 第11章 忍者ブログ
オリジナルファンタジー小説『魔珠』を連載しています。 前作『ヴィリジアン』も公開しています。
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「はい。大切なことでございますから」
 そのつもりで引き取った以上、セイラムはスイを自分の子どもとして、リザレス人として育ててきた。だから、スイが里に行って真実を知るような事態は予想外だった。セイラムは一通り事情を聞くと、クレアの顔を見た。クレアは優しく頷いた。セイラムはシェリスと忍びの者に「分かった」と答え、「このような日が来るとは」と口元をほころばせたという。
 シェリスの手際の良さにスイはただ感心するばかりだった。うつむいてくすりと笑うと、スイは続けた。
「母は一目でそうとわかるくらい顔立ちがよく似ていた」
 シェリスもにこやかな表情でスイの話を聞いていた。
「私は素晴らしい母が二人もいて幸せだ。父のことももちろん尊敬している。産んでくれた両親にも育ててくれた両親にも感謝している」
「産んでくださったお母様もきっとそのような方だと思っておりました」
 シェリスが嬉しそうに相槌を打つと、スイは優しい眼差しを向けて言った。
「そして、ずっと側についていてくれるシェリス、あなたにも本当に感謝している。いつもありがとう」
 不意討ちを喰らってシェリスは少し驚いたようだったが、すぐにいつもの穏やかなシェリスに戻って頭を下げた。
「もったいないお言葉です。これからも少しでもお役に立てるように尽力させていただきます」
 想像していなかったようなかしこまった態度で返されて今度はスイの方が戸惑う。しばらくお茶を飲みながら和やかに里であってことや見たことを話す。そろそろ出かけても良さそうな時間になると、スイは伝えた。
「次の休みに父上と母上に会いに行こうと思う」
「かしこまりました。手配しておきます」
 スイは席を立った。
「そういえば、キリトに何か伝えたか?」
「はい。こちらからお伝えするわけにもいきませんので、ご足労いただきまして」
 つまりスイが出勤してこないので、キリトがここまで来てシェリスに事情を聞きに来たということだ。
「今はお伝えできないのですが、お戻りになりましたら、お話にうかがえると思いますとお伝えしました」
「ありがとう。今からお話にうかがうとするよ」
 言い残すと、スイは身支度を整え、家を出ていった。

次回更新予定日:2020/08/01

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目が覚めると、自室のベッドにいた。
 記憶をたどる。
 里にいた。眠りにつく直前に聞いた言葉は確か。
「それでは、眠っていただきますよ」
 長老との話が終わってすぐに魔術師が現れてそう言った。
「またね、スイ」
 薄れていく意識の中でメノウが優しく見送ってくれていたのを思い出した。
 里で目覚めたときと同じように身体が固まっているような感じがした。慌てずに手足から動かしながら身体をほぐしていく。違和感がなくなってきたところで起き上がってみる。そのままベッドから出て窓の方に歩いていった。日が落ちてからまだそんなに経っていないのだろう。空がきれいな群青色に染まっていた。
 スイは部屋を出てシェリスを呼んだ。
「お目覚めになりましたか。今うかがいます」
「いや。そちらに行く」
 一階から上がってこようとするシェリスを制してスイは階段を降りていった。喉が渇いていたし、食欲はあまりなかったが、しばらく何も食べていなかったせいで空腹感はあった。
「何か召し上がりますか?」
「軽いものがいい。あと食後にお茶を。話がしたい。お茶につき合ってもらっても構わないか?」
「喜んで」
 ダイニングルームに入ると、いつもの上品な笑みを浮かべながらシェリスは椅子を引いた。スイが座ると、奥のキッチンの方に姿を消した。グラスとカラフェを持ってきてテーブルにグラスを置くと、シェリスは水を注いでくれた。カラフェも置いてまたキッチンに戻る。一口水を飲んで喉を潤す。程なくパンとスープがテーブルに並ぶ。スープを口にすると、いろいろな野菜の味が広がった。眠っている間に仕込んでおいてくれていたのだろう。しばらく休んでいた胃にはありがたい食事だった。
 食事が終わると、シェリスは指示どおり二人分のお茶を用意して席に着いた。
 スイが一口飲むと、シェリスも「いただきます」と言って一口飲んだ。シェリスがカップを置くのを待ってスイが口を開いた。
「里で私を産んでくれた母に会った」
「そうでしたか」
 にこやかに頷くシェリスを見て、スイはいたずらっぽい笑いを浮かべた。
「やはりあなたもぐるだったのだな」
「黙っていて申し訳ございませんでした。忍びの方からお話をいただいてセイラム様とクレア様にご相談した結果、協力させていただくことにしたのです」
「父上と母上にも相談してくれていたのか」

次回更新予定日:2020/07/25

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