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「パイヤンで?」
セレストは顔をしかめた。
「はい。単なる噂かもしれませんが、気になります。私を調査に派遣していただけないでしょうか?」
「なるほど」
セレストは静かに何かを考えている様子だった。傍らでエストルがじっとその表情を観察している。
「確かに気になるな。よかろう。調査に向かわせよう。ただし。お前ではなく、ソード、お前が行け」
呆然とした表情でグレンはソードを見た。
「御意」
ソードは平然と頭を下げた。
やはりソードはセレストにとって特別な存在だ。信頼が他の王騎士と比べものにならない。
「グレン、実はお前にはやってもらいたいことがある」
まだ気持ちの整理が終わっていないグレンにセレストは容赦ない。
「エリーに行ってもらいたいのだ」
エリー。パイヤンとは逆の南にある町だ。
「エリーの近くに洞窟があり、その地中深くに魔剣が封印されているという話は聞いたことがあるだろう」
グレンは思考をたどった。
「はい……確か何人もの猛者が挑んだのですが、洞窟には魔物が多く棲みついていて、誰一人として生きて還った者はいないという」
「そうだ。だが、その魔剣、ヴァンパイアが手にすると、その力を強化する可能性がある」
「何ですって?」
グレンよりも先にソフィアが叫んだ。
「実は、ミスグンドにいにしえから伝わる魔剣があるのだが、その魔剣を手にしたヴァンパイアに出会った。おそらく村人だった者だろう。大した強さのヴァンパイアでもなく、魔剣の魔力も、私の見た感じでは弱かった」
ソードが淡々と説明しているのにグレンは聞き入った。ソードは王騎士の中でも魔術を最も得意とし、持っている魔力も、魔力を感じる力も群を抜いている。
「だが、上級ヴァンパイア並みの強さだった。何とか魔剣を破壊し事なきを得たが……もし同種のより強力な魔剣が上級ヴァンパイアに渡れば……」
王騎士三人で束になって戦えば勝機はあるだろうか。しかし、グレンはすぐに上級ヴァンパイアと戦ったときのことを思い出して首を振った。人間が何人束になってかかっても無駄なのだ。ソード並みの力を持った人が三人いれば倒せるかもしれない。だが、上級ヴァンパイアの相手を務めることができるのは今のところソードただ一人だ。あるいは。
次回更新予定日:2015/09/05
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セレストは顔をしかめた。
「はい。単なる噂かもしれませんが、気になります。私を調査に派遣していただけないでしょうか?」
「なるほど」
セレストは静かに何かを考えている様子だった。傍らでエストルがじっとその表情を観察している。
「確かに気になるな。よかろう。調査に向かわせよう。ただし。お前ではなく、ソード、お前が行け」
呆然とした表情でグレンはソードを見た。
「御意」
ソードは平然と頭を下げた。
やはりソードはセレストにとって特別な存在だ。信頼が他の王騎士と比べものにならない。
「グレン、実はお前にはやってもらいたいことがある」
まだ気持ちの整理が終わっていないグレンにセレストは容赦ない。
「エリーに行ってもらいたいのだ」
エリー。パイヤンとは逆の南にある町だ。
「エリーの近くに洞窟があり、その地中深くに魔剣が封印されているという話は聞いたことがあるだろう」
グレンは思考をたどった。
「はい……確か何人もの猛者が挑んだのですが、洞窟には魔物が多く棲みついていて、誰一人として生きて還った者はいないという」
「そうだ。だが、その魔剣、ヴァンパイアが手にすると、その力を強化する可能性がある」
「何ですって?」
グレンよりも先にソフィアが叫んだ。
「実は、ミスグンドにいにしえから伝わる魔剣があるのだが、その魔剣を手にしたヴァンパイアに出会った。おそらく村人だった者だろう。大した強さのヴァンパイアでもなく、魔剣の魔力も、私の見た感じでは弱かった」
ソードが淡々と説明しているのにグレンは聞き入った。ソードは王騎士の中でも魔術を最も得意とし、持っている魔力も、魔力を感じる力も群を抜いている。
「だが、上級ヴァンパイア並みの強さだった。何とか魔剣を破壊し事なきを得たが……もし同種のより強力な魔剣が上級ヴァンパイアに渡れば……」
王騎士三人で束になって戦えば勝機はあるだろうか。しかし、グレンはすぐに上級ヴァンパイアと戦ったときのことを思い出して首を振った。人間が何人束になってかかっても無駄なのだ。ソード並みの力を持った人が三人いれば倒せるかもしれない。だが、上級ヴァンパイアの相手を務めることができるのは今のところソードただ一人だ。あるいは。
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城に戻る。
頭の中がまだ混乱している。まずはなすべきことを整理してみる。
金獅子を討伐したことは報告すればいい。問題はそのあとだ。
ウィンターの言っていたことを確かめなければならない。ゲートが本当に開いているのか。それを確かめるにはゲートのあるパイヤンに行かなくてはならない。パイヤンはゲートがあり、王族の力によって封印がされているため、町自体が国王によって厳重に管理されている。パイヤンに入るには国王の許可が必須だ。
そんなことを考えていると、廊下の突き当たりをソードが曲がってくるのが見えた。
「あ……ソード?」
声をかけようとしたとき、ソードの足取りがやたらと重いのに気がついた。
「ソード!」
「……グレン」
グレンが駆け寄ると、ソードはいつもよりか細い声で返事をした。負傷をしているようだ。手当てはしてもらってはいるようだが、それでも残っている傷跡はまだ痛々しく、かなり苦しそうだ。
「ソード、僕が」
「いや、後だ。まずは報告会に」
グレンが手当てしようとしてもそう言って聞かない。王騎士の中でもナンバーワンの実力を誇るソードがこれだけの負傷、そして焦りよう。ミスグンドで何かあったに違いない。だが、やはりソードの体が心配だ。
「ひどくなったら……」
すると、ソードは弱々しい微笑みを浮かべて言った。
「後でお前が治療してくれるのだろう? 多少悪化しても平気だ」
「僕をこき使う気?」
信頼してもらえていることが嬉しくて、グレンも無理に笑顔を作って返した。
「ソード、その怪我……大丈夫?」
扉の前でまだ帰還したばかりといった感じのソフィアと出くわした。
「ああ。大したことない」
「それならいいけど……」
心配そうにソフィアが見つめる。
「陛下、サルニアで北方から来た旅人や商人から気になる情報を聞いたのですが」
ソードからの報告は長くなるからということで後回しになった。もう内容はあらかじめセレストとエストルが聞いていたのだろう。
無難な切り出し方を考えてグレンは挑む。
「何だ?」
「最近、北方では街道にも魔物が現れるようになったのですが、北東に進路を進めれば進めるほど魔物の数が増えている。また、上空を飛行する魔物の群も北東の方向からやってくる。パイヤンの周辺で何か起きているのではないかと噂が立っているのだそうです」
次回更新予定日:2015/08/29
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頭の中がまだ混乱している。まずはなすべきことを整理してみる。
金獅子を討伐したことは報告すればいい。問題はそのあとだ。
ウィンターの言っていたことを確かめなければならない。ゲートが本当に開いているのか。それを確かめるにはゲートのあるパイヤンに行かなくてはならない。パイヤンはゲートがあり、王族の力によって封印がされているため、町自体が国王によって厳重に管理されている。パイヤンに入るには国王の許可が必須だ。
そんなことを考えていると、廊下の突き当たりをソードが曲がってくるのが見えた。
「あ……ソード?」
声をかけようとしたとき、ソードの足取りがやたらと重いのに気がついた。
「ソード!」
「……グレン」
グレンが駆け寄ると、ソードはいつもよりか細い声で返事をした。負傷をしているようだ。手当てはしてもらってはいるようだが、それでも残っている傷跡はまだ痛々しく、かなり苦しそうだ。
「ソード、僕が」
「いや、後だ。まずは報告会に」
グレンが手当てしようとしてもそう言って聞かない。王騎士の中でもナンバーワンの実力を誇るソードがこれだけの負傷、そして焦りよう。ミスグンドで何かあったに違いない。だが、やはりソードの体が心配だ。
「ひどくなったら……」
すると、ソードは弱々しい微笑みを浮かべて言った。
「後でお前が治療してくれるのだろう? 多少悪化しても平気だ」
「僕をこき使う気?」
信頼してもらえていることが嬉しくて、グレンも無理に笑顔を作って返した。
「ソード、その怪我……大丈夫?」
扉の前でまだ帰還したばかりといった感じのソフィアと出くわした。
「ああ。大したことない」
「それならいいけど……」
心配そうにソフィアが見つめる。
「陛下、サルニアで北方から来た旅人や商人から気になる情報を聞いたのですが」
ソードからの報告は長くなるからということで後回しになった。もう内容はあらかじめセレストとエストルが聞いていたのだろう。
無難な切り出し方を考えてグレンは挑む。
「何だ?」
「最近、北方では街道にも魔物が現れるようになったのですが、北東に進路を進めれば進めるほど魔物の数が増えている。また、上空を飛行する魔物の群も北東の方向からやってくる。パイヤンの周辺で何か起きているのではないかと噂が立っているのだそうです」
次回更新予定日:2015/08/29
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同じ階のいちばん奥に王騎士専用の練習場がある。グレンは部下たちのいる一般の練習場で鍛錬していることが多いため、普段はあまり使わないが、今日は二人だけで話をする必要がある。まずはソードに見てもらわなければならない。
「なるほど。やはりそうだったか」
グレンの剣から吹き出た閃光を自身の剣で振り切るなり、ソードは眉一つ動かさず、無表情のまま言った。
「力が……」
「そうだな」
言葉は少なかったが、ソードはグレンの言わんとすることを誰よりも正確に理解していた。
「やっぱり……ヴァンパイアの、せいなの?」
「そう考えるのが妥当だろう」
「もしかして……ソードのその力は……」
吸血されることによって得た人のものではない力。ヴァンパイアになったことによって得た力。ソードの桁外れの強さは、それがヴァンパイアの力だったからだ。そして、グレンも今、その力を手に入れた。望んだわけではないが。
「運命のいたずらだ。ありがたく使わせてもらえば良い」
穏やかに言われると、少しだけ冷静になった。大きな力を得るということは、特に王騎士であるグレンにとっては、悪いことではない。むしろ魔獣やヴァンパイアを討伐し、人を助けるためには大いに役立つ。ヴァンパイアと戦うときにも、傷ついた人を癒すときにも力があった方がいいに決まっている。それでも、そのきっかけに戸惑いを覚えずにはいられなかった。
「グレン、急には無理だ。少しずつ、受け入れていけば良い」
変わってしまった自分を、ヴァンパイアになってしまった自分を受け入れていく。どれほどの時間がいるのだろうか。ヴァンパイアになっても自分は自分。そう考えて生きていくしかない。ソードはヴァンパイアになったグレンをすでに受け入れてくれている。ソードが受け入れてくれているのに、自分の方は簡単に受け入れられない。
ソードの言ったように、少しずつ受け入れていった。思ったほど時間はかからなかった。もう大丈夫だと思っていた。だが、改めて指摘されると、心が揺らぐ。
「どうかしたのか?」
ウィンターが意地の悪い笑いを浮かべる。あるいはそう見えただけかもしれない。
「いや、何でもない」
グレンは思ったことが顔に出やすい。まだ悟られてはならない。ウィンターはヴァンパイアのことをグレン以上によく知っている。もしかしたら、すでに気がついているかもしれない。そうだとしても、まだグレンの口からは言えなかった。見えない不安が口を割ることを阻んでいる。どうしたらいいのか、言ってしまったらどうなってしまうのか、グレンには予測がつかなかった。ソードもまだ明かさない方がいいと言っていた。もう少し、考えてからにしよう。
次回更新予定日:2015/08/22
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「なるほど。やはりそうだったか」
グレンの剣から吹き出た閃光を自身の剣で振り切るなり、ソードは眉一つ動かさず、無表情のまま言った。
「力が……」
「そうだな」
言葉は少なかったが、ソードはグレンの言わんとすることを誰よりも正確に理解していた。
「やっぱり……ヴァンパイアの、せいなの?」
「そう考えるのが妥当だろう」
「もしかして……ソードのその力は……」
吸血されることによって得た人のものではない力。ヴァンパイアになったことによって得た力。ソードの桁外れの強さは、それがヴァンパイアの力だったからだ。そして、グレンも今、その力を手に入れた。望んだわけではないが。
「運命のいたずらだ。ありがたく使わせてもらえば良い」
穏やかに言われると、少しだけ冷静になった。大きな力を得るということは、特に王騎士であるグレンにとっては、悪いことではない。むしろ魔獣やヴァンパイアを討伐し、人を助けるためには大いに役立つ。ヴァンパイアと戦うときにも、傷ついた人を癒すときにも力があった方がいいに決まっている。それでも、そのきっかけに戸惑いを覚えずにはいられなかった。
「グレン、急には無理だ。少しずつ、受け入れていけば良い」
変わってしまった自分を、ヴァンパイアになってしまった自分を受け入れていく。どれほどの時間がいるのだろうか。ヴァンパイアになっても自分は自分。そう考えて生きていくしかない。ソードはヴァンパイアになったグレンをすでに受け入れてくれている。ソードが受け入れてくれているのに、自分の方は簡単に受け入れられない。
ソードの言ったように、少しずつ受け入れていった。思ったほど時間はかからなかった。もう大丈夫だと思っていた。だが、改めて指摘されると、心が揺らぐ。
「どうかしたのか?」
ウィンターが意地の悪い笑いを浮かべる。あるいはそう見えただけかもしれない。
「いや、何でもない」
グレンは思ったことが顔に出やすい。まだ悟られてはならない。ウィンターはヴァンパイアのことをグレン以上によく知っている。もしかしたら、すでに気がついているかもしれない。そうだとしても、まだグレンの口からは言えなかった。見えない不安が口を割ることを阻んでいる。どうしたらいいのか、言ってしまったらどうなってしまうのか、グレンには予測がつかなかった。ソードもまだ明かさない方がいいと言っていた。もう少し、考えてからにしよう。
次回更新予定日:2015/08/22
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「将軍、相手していただけませんか? 少しは強くなったか力試ししてみたいんです」
「そうだね。久しぶりに見せてもらおうかな」
吸血された次の日、訓練場を通りかかると、稽古をしていた上級兵士たちに声をかけられた。何となく前日のもやもやがまだ取れていなかったため、気分転換にもなるかもしれないと軽い気持ちで引き受けた。
「来い!」
剣を構えると、上級兵士たちが襲いかかってきた。すっと一振り剣を振るうと、宙を斬った風の力だけで全員が吹っ飛び、壁に打ちつけられた。グレンはびっくりして倒れた兵士たちの方に駆け寄った。
「おい、しっかりしろ!」
「う……将軍……」
流血などはなかったが、壁に打ちつけられたときの衝撃は相当大きかったらしく、痛みのためなかなか立ち上がれない。
「ここか?」
治癒魔法を使おうと手を当てると、いつもと比較にならないくらいの力が溢れてくる。
「えっ?」
困惑して慌てて手を引っ込めると、もうすでに兵士はぴんぴんしている。ほんの一瞬だったはずなのに、もう治癒が完了している。
「将軍、何だか、前にも増して強くなられたような……」
「やっぱり、強い敵との実戦が続くと、強く、なるもんなんだなあ」
渇いた笑いで何とかその場を切り抜け、急いでソードを探す。
もうソードしか頼れる人がいない。
そういえば――まさか、ソードのあの桁外れの強さは。
「ソード!」
練習場、図書室、ソードのいそうなところに寄り道しながら城内を走る。やはりいない。
「ソード、グレンだ」
ドアを勢いでかろうじてノックだけする。ソードは自室にいる時間が圧倒的に長い。無口で他人とあまり意識して接しようとしない。冷たく近寄りがたい空気を漂わせているため、部下たちもあまり干渉してこない。グレンとは対照的な王騎士だ。王騎士の三人だけでいるときもあまり口を利く方ではないが、一緒にいて不快だということはない。
「どうぞ」
短い返事をするなり、グレンは部屋に飛び込む。バタンとドアの閉まる音で、ソードは読んでいた本から目を離し、わずかに顔を上げる。
「どうかしたのか?」
静かな口調でソードは尋ねる。
「ソード、手合わせ頼む」
「今か?」
「そう。今すぐ」
唐突な申し出だったが、ソードは不思議そうな顔はしなかった。黙って席を立ち、剣を取ってグレンの後をついていった。
次回更新予定日:2015/08/15
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吸血された次の日、訓練場を通りかかると、稽古をしていた上級兵士たちに声をかけられた。何となく前日のもやもやがまだ取れていなかったため、気分転換にもなるかもしれないと軽い気持ちで引き受けた。
「来い!」
剣を構えると、上級兵士たちが襲いかかってきた。すっと一振り剣を振るうと、宙を斬った風の力だけで全員が吹っ飛び、壁に打ちつけられた。グレンはびっくりして倒れた兵士たちの方に駆け寄った。
「おい、しっかりしろ!」
「う……将軍……」
流血などはなかったが、壁に打ちつけられたときの衝撃は相当大きかったらしく、痛みのためなかなか立ち上がれない。
「ここか?」
治癒魔法を使おうと手を当てると、いつもと比較にならないくらいの力が溢れてくる。
「えっ?」
困惑して慌てて手を引っ込めると、もうすでに兵士はぴんぴんしている。ほんの一瞬だったはずなのに、もう治癒が完了している。
「将軍、何だか、前にも増して強くなられたような……」
「やっぱり、強い敵との実戦が続くと、強く、なるもんなんだなあ」
渇いた笑いで何とかその場を切り抜け、急いでソードを探す。
もうソードしか頼れる人がいない。
そういえば――まさか、ソードのあの桁外れの強さは。
「ソード!」
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「ソード、グレンだ」
ドアを勢いでかろうじてノックだけする。ソードは自室にいる時間が圧倒的に長い。無口で他人とあまり意識して接しようとしない。冷たく近寄りがたい空気を漂わせているため、部下たちもあまり干渉してこない。グレンとは対照的な王騎士だ。王騎士の三人だけでいるときもあまり口を利く方ではないが、一緒にいて不快だということはない。
「どうぞ」
短い返事をするなり、グレンは部屋に飛び込む。バタンとドアの閉まる音で、ソードは読んでいた本から目を離し、わずかに顔を上げる。
「どうかしたのか?」
静かな口調でソードは尋ねる。
「ソード、手合わせ頼む」
「今か?」
「そう。今すぐ」
唐突な申し出だったが、ソードは不思議そうな顔はしなかった。黙って席を立ち、剣を取ってグレンの後をついていった。
次回更新予定日:2015/08/15
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「なぜ、ウィンターはムーンホルンに?」
「テルウィング王はムーンホルンをも支配しようと魔獣やヴァンパイアをここに送り込んだ。見たくないんだ。もう二度と繰り返したくないんだ。あの、惨事を」
これまで冷静だったウィンターが急に肩を震わせて、その大きな両手で顔を覆った。
「ウィンター……」
手首を握りしめ、グレンは優しく声をかける。
「すまない……取り乱した」
ウィンターは髪をかき上げ、顔を上げた。
「この大陸にはまだ希望がある。それに、テルウィングを救うこともできるかもしれない」
グレンはウィンターのその言葉に引きつけられた。希望がある?
「良かった明日手を貸そう。魔獣を倒すのだろう?」
「えっ?」
グレンが驚いて聞き返すと、ウィンターはにやりと笑った。
「それとも」
少し言葉を句切ってグレンの反応を見る。
「王騎士様にこんなことを申し出るのは失礼かな」
「とんでもないです。でも、ウィンター……」
あまり危険なことに他の人を巻き込みたくない。だから、部下だって連れてこないのだ。
「私なら心配ない。それに、一度お前の力を見てみたい」
「では、お願いします」
どうして承諾したのか分からない。だが、ウィンターにはいつも拒否させない何かがある。
目撃情報を頼りに森の奥に進む。やはり今回も人里から少し離れた場所に棲みついているようだ。
こちらの気配に気づいたのか、おたけびがした。町の人々が行っていた魔獣に違いない。獅子によく似た容姿をしていると言っていた。聞こえたおたけびはまさしく獅子のそれを彷彿とさせる。
「いた!」
グレンが確認できたときには、もう魔獣は二人に襲いかかろうとしていた。魔獣はなぜこんなに攻撃的な性格をしているのかとグレンは考えたことがある。だが、ウィンターの言うような戦闘マシーンだとすると、このような振る舞いもごく自然に見えてくる。
「喰らえ!」
即行で剣を構えると、素速い動きで魔獣に斬りつける。
「金獅子だな」
ぽつりと言いながら攻撃を交わし、ウィンターはグレンの剣裁きを見た。美しい弧を描く剣は金獅子の動きを確実にとらえ、無駄のない攻め方でその巨体を傷つける。相手が消耗しきったところで、急所を狙って突くと、魔獣は消滅した。
「さすが王騎士様。見事だ。私の助けなどいらないな」
グレンは息を切らしながらウィンターを見た。すると、ウィンターがにやりと笑いながら言った。
「強い。人間とは思えない」
どきっとした胸をグレンが押さえる。表情がこわばっている。
そう。ヴァンパイアに吸血されたあの日から、急に。
次回更新予定日:2015/08/08
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「テルウィング王はムーンホルンをも支配しようと魔獣やヴァンパイアをここに送り込んだ。見たくないんだ。もう二度と繰り返したくないんだ。あの、惨事を」
これまで冷静だったウィンターが急に肩を震わせて、その大きな両手で顔を覆った。
「ウィンター……」
手首を握りしめ、グレンは優しく声をかける。
「すまない……取り乱した」
ウィンターは髪をかき上げ、顔を上げた。
「この大陸にはまだ希望がある。それに、テルウィングを救うこともできるかもしれない」
グレンはウィンターのその言葉に引きつけられた。希望がある?
「良かった明日手を貸そう。魔獣を倒すのだろう?」
「えっ?」
グレンが驚いて聞き返すと、ウィンターはにやりと笑った。
「それとも」
少し言葉を句切ってグレンの反応を見る。
「王騎士様にこんなことを申し出るのは失礼かな」
「とんでもないです。でも、ウィンター……」
あまり危険なことに他の人を巻き込みたくない。だから、部下だって連れてこないのだ。
「私なら心配ない。それに、一度お前の力を見てみたい」
「では、お願いします」
どうして承諾したのか分からない。だが、ウィンターにはいつも拒否させない何かがある。
目撃情報を頼りに森の奥に進む。やはり今回も人里から少し離れた場所に棲みついているようだ。
こちらの気配に気づいたのか、おたけびがした。町の人々が行っていた魔獣に違いない。獅子によく似た容姿をしていると言っていた。聞こえたおたけびはまさしく獅子のそれを彷彿とさせる。
「いた!」
グレンが確認できたときには、もう魔獣は二人に襲いかかろうとしていた。魔獣はなぜこんなに攻撃的な性格をしているのかとグレンは考えたことがある。だが、ウィンターの言うような戦闘マシーンだとすると、このような振る舞いもごく自然に見えてくる。
「喰らえ!」
即行で剣を構えると、素速い動きで魔獣に斬りつける。
「金獅子だな」
ぽつりと言いながら攻撃を交わし、ウィンターはグレンの剣裁きを見た。美しい弧を描く剣は金獅子の動きを確実にとらえ、無駄のない攻め方でその巨体を傷つける。相手が消耗しきったところで、急所を狙って突くと、魔獣は消滅した。
「さすが王騎士様。見事だ。私の助けなどいらないな」
グレンは息を切らしながらウィンターを見た。すると、ウィンターがにやりと笑いながら言った。
「強い。人間とは思えない」
どきっとした胸をグレンが押さえる。表情がこわばっている。
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千月志保
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