ヴィリジアン 第14章 パイヤン(12) 悔し涙 忍者ブログ
オリジナルファンタジー小説『ヴィリジアン』を連載しています。
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「エストル、少し、町を歩いてみない?」
「もう大丈夫なのか?」
 急に体を起こしたグレンを慌てて後ろから追いかけるようにエストルは支えた。
「疲れも取れたし、少し体慣らしがてら」
 すっかり元気になったグレンを見てエストルも笑顔になる。
「分かった。少しその辺を歩こう」
 二人は人気のない町の中を歩き出した。
 グレンが積極的にどれもよく似た木製のドアをノックしていく。
「どなたかいらっしゃいませんか?」
 だが、どの家からも応答はなかった。
 何軒か回ってグレンはドアノブに手をかけた。ドアには鍵がかかっていなかった。
 誰もいないがらんどうの部屋。人が住んでいた形跡はある。本来あるべき風景から人だけが消えてしまったかのようだった。
 横でグレンが肩を落としたのに気づき、エストルが心配そうに声をかける。
「どうした、グレン」
 グレンは小さくつぶやいた。
「僕がヴァンパイア討伐に行った町や村も、こんな感じになっているのかな」
 ぐさりと何かがエストルの胸を貫く。
「僕は、いったい何人の人を……」
「やめろ」
 静かだったが、毅然とした口調でエストルが止める。
「私は、三人の王騎士のヴァンパイア討伐に加担した。お前の少なくとも三倍以上の人を死に追いやった。だが、それが最良の策だったと今でも信じている。被害を最小限に食い止めるには、やはりそれしかなかったと」
 肩が震えていた。グレンはびっくりしてエストルの横顔をのぞいた。エストルのぎゅっとつぶった目からは一筋の涙がこぼれていた。
「エストル?」
 信じられなかった。エストルの涙を見ている。あのいつも冷静で強いエストルの目から涙が。
「なぜ、こんなことになってしまったのだろう」
 歯を食い縛りながら口にするエストルは拳を強く握っていた。
「人間の欲望がヴァンパイアを生み出した。そして、何の罪もない多くの人が犠牲になった」
 多くの人を守れなかった自分の無力に対する悔し涙。事実上王がいなくなってしまって代わりに国を任された宰相にかかる重圧がどのようなものなのか、グレンは痛いほどに感じた。だが、それ以上にエストルは一人の人間として、人の大切な命がいとも簡単に奪われていくことに心を痛めていた。大切な人を失うこと。それがどれほど怖いことかをエストルは何度も想像して恐怖した。グレンに危険な任務を命じるたびに想像して恐怖した。
「行こう。私たちの手で止めるんだ。これ以上の犠牲は出させない」
 顔を上げて毅然と言い放つエストルにグレンも強くうなずいた。
 ヴィリジアンの力を得た以上、これ以上誰も悲しませたくない。
 そして、エストルをこの重圧から解放したい。

次回更新予定日:2017/12/23

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